#30秒後にホロリSNSばなし③

文字数 2,871文字

アイドルの理想とSNSの闇を描いたリアル・サスペンス#柚莉愛とかくれんぼ(真下みこと・著)。講談社文庫からの刊行を記念してお送りしてきた本書と真逆のSNSホッコリばなし連載も今回がラスト。心洗われる3本をご紹介しましょう。

【FさんのSNSいい話】

海外在住の幼なじみから、クリスマスプレゼントが送られてきた。

わくわくしながら開けると…見たことのないものが。


…これって、何? どうやって使うもの?


そこで写真をとってSNSにあげたところ、何人もの人から情報が!

答えは「スコーン・ホルダー」。


真ん中を持ち上げてリボンを結ぶと、スコーンやロールブレッドを入れるスペースができるので、そこに焼き立てを入れると保温されるそう。


いやー、よかった、知らなかったら鍋敷きにするところだった!

SNSよ、ありがとう。


(編集部の片隅で)

B「焼きたてのスコーンをすこ~んと入れるものがあるとは知らなんだ。ほぉ~ん」

C「スコーンと保温でいきなり2つもダジャレかましてきたわ」

A「まあまあ、Bさんをせめないで。世界的にも中年男性がダジャレを好むって傾向があるんだって。脳科学の研究テーマにもなっているって聞いたことがある」

C「う~ん、だったら仕方ないわね。それにしてもSNSに写真あげて知らないものが何か聞いちゃうって面白い使い方。名前が分からないものを検索するって大変だし」

A「自分でコツコツ調べる面白さも否定はしないけど。正解にたどり着く前に思わぬ発見があったり」

C「SNSって知識の宝庫。私ももっと活用しよっと」

B「活用して試合に勝つよう。そんなダジャレを言うのは誰じゃ。あはははは」

C「Bさんの取り扱い方SNSで聞きてえええ」


【TさんのSNSいい話】

おじいちゃんがどうしてもまた旅行に行きたいところがあるという。


それは、今は亡きおばあちゃんと一緒に行った、イタリアの田舎町。

往路の飛行機の中で横に座っていたイタリア人のおうちに招かれたのだという。


が、おじいちゃんの記憶は曖昧。

あるのは、何枚かの写真だけ。


家の作りはちょっとドイツぽい。

そして高い山々。

ワイン畑と川。


私には全く見当もつかない…。

その写真をSNSにあげて、ダメ元で「どなたかこれがどこかご存知ではないでしょうか」ときいてみたところ…


「この山の形はドロミーティでは?」

「この教会…トレンティーノのあたりかな」

「道路標識がイタリア語とドイツ語表記ですね…ということは、南チロル地方では」

「…これはアルト・アディジェですね!」

なんと、一般ネット民、ベリングキャット並み……!


2日ほどで場所がわかり、おじいちゃんも大喜び。


その後、おじいちゃんと父母、私でアルト・アディジェを訪ね、お世話になったご家族とも再会。

おじいちゃんとイタリア家族は言葉も通じないのに、夜遅くまで一緒にワインを飲んで再会を喜んでいました。


ありがとう、みなさん。


(編集部の片隅で)

A「写真の手がかりだけでその場所を推理するって、とっても面白そう。地図やストリートビューなんかも駆使しながら」

C「なんだかクイズ番組みたいだけど、正解を出すだけじゃなくて、みんなの答えでハッピーになる人がいるわけでしょ。なんて素敵なのかしら」

A「このエピソード聞いたら、早く海外旅行に行きたくなってきたよ。日本じゃ絶対に味わえない体験が毎日押し寄せるのがたまらないね」

B「うんうん、日本じゃ絶対に味わえない酒が毎日押し寄せてくるもんな。旅の酒は吞め呑め、旅の恥はかき捨て。く~っ、たまらんなあ」

C「Bさんのあられもない姿をSNSで見かける日がこないように」


【NさんのSNSいい話】

震災から数週間後のこと。


被災地の施設に入っていた母親の情報がつかめず、遠く離れた東京で生きた心地のしない日々を送っていました。


そんな時、息子が「おかあさん、SNSで呼びかけてみたら。」と提案してきました。


直後は携帯も全くつながらなったのですが、このころになるとみんなSNSで家族を、友人を、知人を探していました。


「そうね…やってみようかしら。」

「孤立した〇〇園に入所していた母の消息を探しています。全く情報がありません。何かご存知の方はいらっしゃいますか」


すると…30分もしないうちに、

「私の父も入所していました! 不安ですよね」

「橋が流されてしまったばかりか周囲が水没、陸路ではどうにも行かれず孤立しているようです」

「自衛隊がくるという情報がありました」

など、次々に反応が!


そして翌日には

「自衛隊のヘリにより、先週全員の避難が完了したそうです。行き先は〇〇県の▲▼ガーデンという施設だそうですよ」

という情報が…!


すぐに電話をしてみて、母親がいることを確認。

母の声を聞いた途端、涙があふれ出て止まりませんでした。


この時ほど、SNSの存在に、SNSを通じてつながった見も知らぬ方々に感謝したことはありません。


(編集部の片隅で)

A「以前はSNSって若い人のモノって意識があったよね」

B「〇〇なうって、若者は知らない人たちに向けて何をアピールしたいんだろうって理解できなくてな」

C「なうって言葉なつかしい」

A「その不特定多数に発信できることが震災では大切だった。電話やメールだと特定の人にしか情報がいかないわけで」

C「震災によってSNSは幅広い世代に広がったんじゃないかと思う。当時、年配の方でもアカウントを取ったって話をよく聞いたし」

A「絆とか人の優しさとか、ここまで多くの人の心に刻むことができたのは、SNSの力も大きいね」

C「世界のいろんな人とつながれるSNSってやっぱりいい」

A「そんなSNSをこれからもちゃんと活用していくために、あえてサスペンス『#柚莉愛とかくれんぼ』を読むのがオススメ。炎上ってこうやって生まれてしまうんだと勉強になったよ」

C「思わぬ展開で一気読み間違いなし。幅広い世代に読んでほしいね」

B「よーし、僕もナウなヤングにウケるためにSNS勉強なう」

C「どこから勉強してもらったらいいか分かんな~い!」


真下みこと『#柚莉愛とかくれんぼ』

講談社文庫より発売中!!

推しの心に触れたくて書き始めた小説は、

思いもよらない結末を迎えました。

ーー真下みこと

3人組アイドルグループのメンバー・青山柚莉愛。

メジャーデビューを目指すも売り上げ目標を越えられず焦る日々。

ある日マネージャーの提案で動画配信ドッキリを実行し、ファンの混乱がSNSで広がっていく。

騙されたファンの怒りの矛先はマネージャーや事務所ではなく柚莉愛本人に向かってしまい――。

真下みこと(ました・みこと)

1997年埼玉県生まれ。2019年『#柚莉愛とかくれんぼ』で第61回メフィスト賞を受賞し、2020年デビュー。著書に『あさひは失敗しない』がある。またアンソロジー『Day to Day』に掌編小説「40分の1」が収録されている。シンガー・みさきとの「読む音楽」と「聴く小説」を届けるボーダレスデュオ「茜さす日に嘘を隠して」では小説執筆と作詞を担当、活躍の場を広げている。

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