『紅の豚』/西村健

文字数 1,359文字

8月27日(金)から、『劇場版 アーヤと魔女』がいよいよ全国ロードショーされますが、夏休みの夜といえば、そう、ジブリ映画ですよね!


「物語と出会えるサイト」treeでは、文芸業界で活躍する9名の作家に、イチオシ「ジブリ映画」についてアンケートを実施。素敵なエッセイとともにご回答いただきました!

9月4日まで毎日更新でお届けします。今回は西村健さんです。

西村健さんが好きな作品は……


『紅の豚』

 「飛べねぇ豚はただの豚だ」

 

 あまりにも有名なセリフですよねぇ。確かにこの一言だけでシビレてしまう……


 そもそも豚(まぁ元は人間なんだけど)がスゴ腕のパイロット、というだけでユニークなのに、その可愛らしい見てくれ(まぁサングラスに髯はありますが)とは裏腹に、声はあのシブいシブい森山周一郎センセイ(ご冥福をお祈りします)。そのギャップがたまらない。このキャスティングだけで既に成功間違いなし、ですよねぇ。事実、冒頭のセリフ、もう他の声で、なんて想像もつかない。


 ただ、個人的にはこれよりお気に入りのセリフがあるんですよ。


 銀行から金を引き出した主人公、ポルコ。銀行員から「愛国国債などお求めになって、民族に貢献されては」と勧められて、一言。


「そういうことはな、人間どうしでやんな」


 戦争。ファシスト政権……。愚行ばかり繰り返す人間とは一線を画し、俺はお前達とは違うんだ、とばかりに突き放す。


 カッコいいよねぇ。人間でいることが心底、恥ずかしく思えて来る。私は豚になりたい(それもできれば、飛べる方の)ってか!? 名セリフの宝庫である本作の中でも、特に好きなシーンの一つです。


 それから何と言っても、音楽がいい。加藤登紀子さんの歌声に聞き惚れます。エンディングで流れる『時には昔の話を』は、カラオケ行ったら必ず歌います、はい。


「小さな 下宿屋に いく人も おしかけ 朝まで 騒いで 眠った」


 この通りの生活を30過ぎまでやってましたし、ね(苦笑)

西村健(にしむら・けん)

1965年福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。労働省(現・厚生労働省)に入省後、フリーライターになる。1996年に『ビンゴ』で作家デビュー。その後、ノンフィクションやエンタテインメント小説を次々と発表し、2021年で作家生活25周年を迎える。2005年『劫火、2010年『残火』で日本冒険小説協会大賞を受賞。2011年、地元の炭鉱の町大牟田を舞台にした『地の底のヤマ』で(第30回)日本冒険小説協会大賞、(翌年、同作で第33回)吉川英治文学新人賞、(2014年)『ヤマの疾風』で(第16回)大藪春彦賞を受賞する。著書に光陰の刃バスを待つ男、『目撃』、博多探偵ゆげ福シリーズなど。

「tree」でバス旅エッセイ「日和バス」を不定期連載中。自身のブラ呑みブログ (ameblo.jp)」でもブラブラ旅をご報告。

1995年、大地が裂けた。時代が震えた。

阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件と未曾有の災厄が相次いだ一年、戦後五十年かけてこの国が築き上げたあらゆる秩序が崩れ去っていく……。
昭和史の闇を抉った傑作『地の底のヤマ』の著者が描き出す平成の奈落。

雑誌記者として奔走した自身の経験が生んだ渾身の力作長編。

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