第87回

文字数 2,369文字

まぁ冬やね、という冷え込みになってまいりました。

ガンガンエアコン焚いて部屋をあっためて、風邪ひかないようにしような。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

先日実家の父が、風呂場で倒れているのが発見された。


結果からいうと一命をとりとめ現在に快方に向かっているらしい。現在コロナウィルスの影響により、基本的に家族でも面会は出来ず倒れて以来誰もリアル親父の姿を見ていないのだが、とりあえず意識はあるようだ。


発見したのは兄で、父が風呂から3時間ぐらい出てこないので様子を見たら湯船で意識を失っていたという。

もうちょっと早く気づけよと思うかもしれないが、父は平時から風呂に2時間ぐらい入るため発見が遅れてしまった。

しかし逆に言うと「平時から風呂に3日入る」だったら発見されるのは4日目なのでおそらく手遅れだっただろう、二時間だったからスピーディに発見されたと言える。


どちらにしても、父には同居家族が3人いたため「父以外風呂は週一」でない限りは、いずれ誰かに発見されたと思う。

やはり年を取ると同居家族がいる、というのは大きなアドバンテージである。


これが発見されないverが今問題になっている「孤独死」である。

孤独死で一番多いのは独居老人が父のように何らかの理由で意識を失い、誰にも発見されず、そのままというパターンだ。


しかし、最近現役世代の孤独死も増加傾向だという。

会社員には「出社」という百鬼夜行への参加が義務付けられており、不参加の際は中間管理職のぬらりひょんあたりに「ちょっと祖母の砂かけババアの葬式で…いやこの前死んだのは母方の砂かけババアっす」と断りを入れなければならない。

もし断りがなければ、鬼電からの鬼訪問で、少なくとも一週間以内に所在や安否、そして処遇が決定するだろう。


しかしネットの普及、そしてリモートワークの普及により百鬼夜行がなくなり、「そういや小豆洗いが今日来てなくね?」というのがすぐに気づかれずらくなった。

ただ、基本的に人間を信じておらず、何かと人を監視したがるニチャニチャな国民性のおかげで、リモートワークが普及してすぐに社員のサボりを防ぐ監視システムがクソほど作られたため、会社員であればリモートワークでも異変があれば割とすぐに気づいてもらえる。


「マウスが一定時間操作されないとチクリが入る」というシステムが大真面目に出された時は、ディストピアかよと批判されていたが、命を救うのは意外とこういうシステムなのかもしれない。


だが、個人で在宅勤務をしている場合は気づかれずらく、実際、家で仕事をしていた現役世代が、不慮の事故や病気で命を落とししばらく気づかれないという事例は少なからずあるようだ。


しかし、それでも仕事をしているなら取引先とかに気づいてもらえるかもしれない。漫画家だって音信不通になれば担当編集が気づくはずだ。

ただ漫画家の場合は、不慮ではなく自発的に音信不通になるケースもあるため、発見が若干遅れるかもしれない。


だがそれよりも発見されないのが、仕事も勉強もしていない、ひきこもりである。

ただ、何もしていないひきこもりというのは何せ何もしていないため生活能力がなく、同居家族がいる場合が多い。

ただし、家族とも接触を避けているひきこもりは、スネークばりのステルススキルで家族と顔を合わせないようにするため、同居家族にすら死んでいることが数日気づかれなかったという例もあったそうだ。


独居老人のなかでも、無駄に外に出ているタイプであれば「最近あのババア見ねえな」と周囲が異変に気づきやすいが、片やひきこもりは異変どころか、まず存在を知られていない場合が多い。


つまり「突然倒れた時の対策」は、ひきこもりにとって避けては通れない課題である。


幸い日本は独居老人が増加の一途なので、異常があった時に発見を早めるサービスは増えてきている。

独居のひきこもりは年齢に関わらず、異変があった時、それを周囲に伝える方法を元気なうちから考えておく必要があるだろう。


身近なところではアップルウオッチが、転倒ししばらく応答がなければ、しかるべき場所に自動で連絡するシステムを導入しているという。


これと同じように、身に着けているものが異変を知らせるサービスは増えているようだ。

しかし、これらには「身に着けていなければいけない」という大きな欠点がある。


冒頭を思い出してほしい。我が父は風呂場で倒れていたのである。しかもこれはレアケースではなく、年を取ると風呂で倒れる可能性はかなり高いと思われる。

いくら防水性でも時計をつけたまま風呂には入らないだろう、それはアップルを試し過ぎている。

風呂にそういうシステムをつける、というのもありかもしれないが、やはり一番確実なのは本人につけておくことである。


結局、おキャット様やおドッグ様のようにマイクロチップを埋め込むのが確実なのではないか。


確かに人間はおキャット様たちより遥かに下等な生き物なので、マイクロチップなど100年早いのは承知の上だ。


だがここは一つ、愚かな人間たちにもおキャット様方とオソロをさせていただくチャンスをもらえないだろうか。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は12月31日(金)です。

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