「僕が死ぬまでにしたいこと」/平岡陽明
文字数 1,428文字
僕が死ぬまでにしたいこと/平岡陽明
ふしぎなことに、趣味のこと、余技のことばかりへ頭がいく。思い浮かんだままに挙げてみる。
まずはなんといっても、邪馬台国の所在地を確信してから死にたい。私は九州説の熱烈な支持者だ。私が生きているあいだに、筑紫平野のどこかで卑弥呼の金印が見つからないものか。九州説の支持者をあつめて、クラウドファンディングでもしようか。
次に、競輪の自転車で400バンクを一周もがいてみたい。私は横浜の花月園競輪場の近くで育った。祖父も父も競輪好きで、幼い頃から連れて行かれた。400メートルをもがくのはどれほど大変なことか。ずっと体感してみたかった。体感すれば、もうちょっと当たるはずだ。車券はG1くらいしか買わないが、10年くらい当たってない気がする。
ギャンブルつながりでいえば、麻雀でアガってみたい役満がある。これまでアガったのは国士、大三元、四暗刻というおなじみの3つに加え、小四喜と九蓮。天和や四槓子なんて贅沢は言わない。せめて緑一色か清老頭でどうですか、麻雀の神様!
あと、これはこの原稿を書き始めるまで意識したことはなかったのだが、おもしろい漫才か創作落語の台本を1本書けたらいいな。エンタツ・アチャコの「早慶戦」とか、やすきよの「同級生」みたいなイメージだ。恐れ多い? でも、夢は叶わないくらいがちょうどいいのだ。
そして、いくつか逗留してみたい宿がある。いずれも源泉掛け流し、足下湧出の名湯だ。日本は温泉天国である。名湯が必ずしも高級宿とは限らない。
こうして書き出してみると、案外、口福の欲はなさそうだ。それなりに食い意地は張っているはずなのだが。
年齢によってリストは変わるだろう。毎年とは言わないまでも、3年とか5年ごとに書き出してみて、自分の精神の変化を感じとるのも面白いかもしれないと思った。
ちなみに、死ぬまでにしたくないことならカンタンに思い浮かぶ。胃カメラ。通院。手術。歯の治療。医者とはなるべく関わらないでいきたいものだ。こちらも、叶わぬ夢とは知りながら。
平岡陽明(ひらおか・ようめい)
1977年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2013年『松田さんの181日』(文藝春秋)で第93回オール讀物新人賞を受賞し、デビュー。’20年『ロス男』(本書。文庫化に際し改題)が吉川英治文学新人賞の候補になる。他の著書に『道をたずねる』(小学館)、『ぼくもだよ。神楽坂の奇跡の木曜日』(角川春樹事務所)、『ライオンズ、1958。』『イシマル書房編集部』(ともにハルキ文庫)がある。
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