第6話 ブックス ルーエ

文字数 1,849文字

書店を訪れる醍醐味といえば、「未知の本との出合い」。

しかしこのご時世、書店に足を運ぶことが少なくなってしまった、という方も多いはず。


そんなあなたのために「出張書店」を開店します!

魅力的な選書をしている全国の書店さんが、フィクション、ノンフィクション、漫画、雑誌…全ての「本」から、おすすめの3冊をご紹介。


読書が大好きなあなたにとっては新しい本との出合いの場に、そしてあまり本を読まないというあなたにとっては、読書にハマるきっかけの場となりますように。

第5回は、東京・吉祥寺の「ブックスルーエ」さまにご紹介いただきます。
『フライデー・ブラック』
 ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー/作 押野素子/訳

(駒草出版)

 欲しい物の名前を唱え、ショッピングモールに押し寄せるゾンビのような客を見事に捌いていく店員。“正義を行使する”体験ができるアトラクションで、白人の客に繰り返し殺される毎日を送る黒人の青年。短編集『フライデー・ブラック』には、そんな人たちが出てくる。この本はフィクションで、私たちの住む世界にはゾンビの居るモールもないし、そんな残酷なアトラクションはないはずだけれど、読んだ後、ああこの本には、私たちが今生きている現実世界が描かれているのだと気づかされる。
 著者のナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤーは91年生まれ、ニューヨーク育ち。両親はガーナからの移民。肌の色や国籍で差別を受けたことのない私には「黒人だから」という理由で殺され搾取される社会を生きる厳しさについて「理解できる」などとは到底言えない。でも、そのやり切れなさや怒りを、登場人物を通して肌に感じることはできる。そしてこの短編集は、この現実には、社会の誰もが加担しているのだ、お前もその一人だと、ぐいっとがしっと肩を掴まれて揺さぶられるような力を持っている。
 同じ、違う、わかる、わからない。シュールでユーモラスでスリリングな物語を味わいながらそれを行き来する。翻訳、文学、物語の力をお腹いっぱい感じられる1冊です。
『JOY』 
絵津鼓/作

(講談社)

 表紙買いというのをよくします。実際に読んで、想像していた内容と違うことはありますが、それが結構好きなんです。『JOY』も喜びにあふれたたのしげな雰囲気の表紙に惹かれ、手にとりました。
 さて、「ボーイズラブかあ…」と思った方も多いのではないかと推察します。たしかに過激な描写の多いジャンルではありますが、そのイメージの強さで過剰に苦手にはなられてしまうのは、とてもさみしいです。 だから、読んでほしい。知ってほしい。ボーイズラブも、多様化しているのです。
 ご紹介する『JOY』は、軽やかな作風の中で、登場人物それぞれの気持ちが繊細に描かれています。少女漫画家の豪くんが「もっと世の中の役に立つことしたら?」と非難されるシーンで、自分の気持ちを伝え「傷つくよ」と言えることや、続編『JOY Second』で、久しぶりに会った同級生・草野に同性と付き合っていることに気を遣われるシーンでは、「僕たちのことに特別な理由見つけなくていいよ」と悪意なく言えてしまう。そういった豪くんのまっすぐな“好き”の気持ちが他の人物たちにも影響を与えていきます。

 同性と付き合うことが特別なことではないと教えてくれる一冊。

『とびだす絵本 おもちゃばこ』 
ジェラール・ロ・モナコ/作 うちださやこ/訳

(アノニマ・スタジオ)

 「おもちゃばこ」は、6年前にフランスと日本で同時発売された、とびだす絵本です。
 ヨットに木こりに消防車…1ページにおもちゃがひとつ、短くリズミカルな文章に、カラフルだけど懐かしさを感じる素敵な色合いと、手触りのよいほっとする紙質。全てが調和して、ページを開いた途端に時間がゆっくり流れ出すような、穏やかな気持ちにさせてくれます。ページ数も少なめでシンプルですが、見て、読んで、遊んで、飾って、本の楽しみがぎゅっと詰まっている素敵な絵本です。本を開く前のあのわくわくと、ぱたんと閉じた時の満足感を是非味わってください。裏表紙にはおもちゃの平面図もあるのでお見逃しなく。
 うちのお店では毎年クリスマス時期に顔を見せ始める絵本で、プレゼントにもおすすめ。いわゆる「子どもからおとなまで」の絵本ですが、個人的には大人の方にぜひ見て頂きたい1冊です。最後のページは思わず「わぁー!」となるのでお楽しみに…
ブックスルーエ(東京・吉祥寺)

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