〈6月28日〉 夢枕獏

文字数 769文字

幻句(げんく)(りょう)(りょう)


夜桜も化けて来たれや京の宿

五億年待てとは仏の嘘ぞ花吹雪

青き鱗のどこまでが哀しみぞ蛇眠る

月を()(まむし)真白(ましろ)()となりぬ

万緑の底に哭きいさちる神あり青嵐

(まむし)()卵胎生(らんたいせい)の子を生めり

狼がくわえている夏の月

蛍火の口より出でよ()(むくろ)

秋の指青き乳房(ちぶさ)(にえ)となる

酒尽きて月と寝ている李白かな

松の月(じじ)(ばば)笑うてぶらさがり

月を()(ひょう)(あぎと)や影赤し

人ことごとく滅びて赤し曼殊沙華

湯豆腐を虚数のような顔で食う

寒月を睨んでおりぬ土佐衛門

青き嘘つきたる唇の真紅

いちめんのなのはな虚数の(きわ)の海光る

ゴジラも踏みどころなくて花の山

盲獣(もうじゅう)となりし母なり赤き月

花揺るる那由他(なゆた)不可思議(ふかしぎ)無量(むりょう)大数(たうすう)


夢枕獏(ゆめまくら・ばく)
1951年1月1日、神奈川県小田原市生まれ。‘77年作家デビュー。『キマイラ』『サイコダイバー』『闇狩り師』『餓狼伝』『陰陽師』などの人気シリーズ作品を次々と発表。’89年『上弦の月を喰べる獅子』で日本SF大賞、‘98年『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞受賞、2011年刊の『大江戸釣客伝』で泉鏡花文学賞、舟橋聖一文学賞、吉川英治文学賞をトリプル受賞。他の著書に『大江戸恐龍伝』(全6巻)、『ヤマンタカ 大菩薩峠血風録』など。多数の連載を抱えながら、釣り、観劇、作陶など多彩な趣味を持つ。

【近著】

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