「群像」2021年6月号

文字数 1,503文字

編集後記は、文芸誌の裏方である編集者の顔が見えるページ。

このコーナーでは、そんな編集後記を選り抜きでお届けします。

「群像」2021年6月号より

4月5日、第64回群像新人文学賞の選考会が行われました。今回から柴崎友香さん、松浦理英子さんに加え、新たに島田雅彦さん、古川日出男さん、町田康さんに選考委員を担っていただきました。昨年は書面(メール)でのやりとりを繰り返すという選考でしたが、今年は十全なコロナ対策を施したうえで、対面での選考をお願いしました。二時間にわたる議論の末、当選作に石沢麻依さん「貝に続く場所にて」と島口大樹さん「鳥がぼくらは祈り、」、優秀作に松永K三蔵さん「カメオ」と、受賞作を三作生み出すことができました。誌面の都合上、三作同時掲載とならなかったことをお詫びします。松永さんの作品は次号をお待ちいただき、まずは石沢さんと島口さんのデビュー作をお楽しみください。


◎新しい才能が生まれる一方、ルシア・ベルリンは、一昨年『掃除婦のための手引き書』が異例のヒットを記録し、没後「再発見」された作家。岸本佐知子さんに、単行本未収録作品から3篇、訳し下ろししていただきました。◎創作は、川上弘美さんの短篇「吉行淳之介だけれど、もともとは牧野信一の」(!)と、朝比奈あすかさん「誰もいない教室」井戸川射子さん「素晴らしく幸福で豊かな」という力作中篇二本。


◎「群像」に掲載された作品を収録した短篇集『どの口が愛を語るんだ』刊行を記念して、東山彰良さんと江國香織さんに対談をお願いしました。小説における「愛」とは何か。


◎「小説は芸能の一種である」―という小説観に起因する、矢野利裕さんの渾身批評「おかしさを見すえて、夢中に生きて」は、西加奈子論。


◎工藤庸子さん「大江健三郎と「晩年の仕事」」、小田原のどかさん「近代を彫刻/超克する」、町屋良平さん「ほんの私」が、今号で連載完結。単行本化もお楽しみに。


◎増村十七さんによるNHKEテレ「100分de名著」のレポ漫画「100分de名言を求めて」。今月は、平野啓一郎さんを講師に迎えた、三島由紀夫『金閣寺』です。


◎「article」は、「パリス・レビュー」に掲載されたジョン・フリーマンさんによるローレンス・ファーリンゲティ追悼記事を、小澤身和子さんに翻訳をお願いし、転載しています。「群像」のインタビューをきっかけに連絡を取り合ったという吉増剛造さんと佐野元春さんのNHK対談番組で、「ビート」や『吠える』について話されていたのは、偶然とは思えないタイミングでした。


◎コラボ連載「DIG」で石川輝吉さんが取りあげているのは、『じぶん・この不思議な存在』です。


〈「場」が続いていくことや育っていくことには、その場所を持っている個人のほかに、どれだけの人が自分のことのようにその場所のことを想っているかが大きく関わる。(中略)曲線は、本を売るためだけではない多機能的な場であると同時に、まぎれもなく本のための場でありたいという想いがある。〉


仙台の書店「曲線」の菅原匠子さんに今月お願いしたエッセイの一節です。「文」×「論」という「場」を作っていきたい「群像」も同じだと思いました。コロナ禍という困難な状況下で、「群像」に関わっていただいているみなさんに、あらためて感謝いたします。


7月号は、昨年と同様批評特集を予定しています。今月もよろしくお願いします。


(「群像」編集長・戸井武史)

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