大人のショート・ショート⑦「ロックバンド解散」/井口貴史

文字数 1,580文字

あっという間に読めてあっと驚く結末。

5分で読める大人のためのショート・ショート!

ちょっぴりダークで不思議な世界をのぞいてみませんか。

「ロックバンド解散」


「今日はみんなに伝えたいことがあるんだ!聞いてくれるか!どうだいベイベー!」


激烈フライデーズのギターボーカル、ジョンブル横山は、ライブの後半に突然ギターを置いてトークをはじめた。


「俺ら激烈フライデーズは10年間休まず毎週金曜の夜、ここ、ヘルズタウンカフェで爆音かましてきたよな?どうだいベイベー!そうだろ!」


狂喜乱舞。ライブ会場の客たちはダイブしまくりのモミクチャ。汗と熱気で床も人もベチョベチョで、湿気が霧のようだ。汗だくのジョンブル横山は続けて喋る。


「聞いてくれベイベー」


他のメンバー3人もジョンブル横山のトークに耳を傾けているようで、スポットライトの中でそれぞれ揺れている。


「俺たちは爆音の中で10年間いっしょに包まれたんだぜベイベー!俺はバンドのバカでかいノイズと、お前らの叫び声の中で、そう!生きてきたんだぜベイベー!最高だな!そうだろ!奇跡だぜ!」


会場は観客の絶叫で地鳴りのようにうねっている。


「だけども。物事には終りがある。今夜が最後だ。バンドは解散だ!実は俺、爆音で耳がやられちまって、音が全然聞こえねぇんだ!分かるだろうベイベー!燃え尽きちまったのさベイベー!激烈フライデーズは今夜で解散だ!そして次の曲が最後だ!聞いてくれよ!【金曜8時の激烈ダンス】だぜベイベー!いくぞー!ロックンロール!!」


その夜。激烈フラーデーズはいつものように会場中に爆音を撒き散らし、燃え尽きた。

今宵で最後。バンドメンバーと客と会場は1つになり、強烈に盛り上がった。血を吐くほど、わめき散らしたジョンブル横山はライブ終了後の楽屋で失神した。


翌週、金曜日。意識を取り戻したジョンブル横山は、いつものようにヘルズタウンカフェにいた。それもそのはず。10年間毎週金曜日の夜はここに来ていたので、無意識にジョンブル横山は舞台の上に立っていた。


それはジョンブル横山だけに限らなかった。激烈フライデーズのバンドメンバー、そして客までも、いつものように会場に来ていたのだ。


「お前ら、なにしに来やがった!俺は耳がイカれちまって、先週バンドは解散するって言ったじゃねえか。それなのに解散した翌週にいつものようにライブに来てるなんてよ!なんか泣けるぜ!バンドのメンバーもお前らも、とんでもねえオオバカ野郎達だ!よっしゃ!今夜もやっちゃうかいベイベー!ロックンロールだ!バカ野郎!」


ジョンブル横山がエレキギターを掻き鳴らすと、バンドのメンバーがそれに答え演奏が始まる。いつものように熱気が会場全体を支配する。そう。10年間、爆音のノイズにさらされていたのはジョンブル横山だけではない。


会場全員、一人残らず耳がイカれちまってる。


井口貴史(いぐち・たかし)

兵庫県淡路島出身。東京都在住。
2018年より『5分後に意外な結末』シリーズ(株式会社 Gakken)や『意味がわかると鳥肌が立つ話』シリーズ(株式会社 Gakken)に参加。近著として2023年7月発売『5分後に意外な結末ex インディゴを乗せた旅の果て』(株式会社 Gakken)にて『見てる』と『ちっぽけ』を収載。主にショートショート作品を創作。
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