三津田信三 『誰かの家』

文字数 1,117文字




【気味の悪い古本】

N社の編集者Iとの打ち合わせの際に、以下のような話を聞いた。

 今年の1月、Iの携帯電話にS社の編集者Mから、「怖いことがあった」と連絡が入った。某所の古本屋の百円均一コーナーで『○○入門』を買って帰ったところ、2枚のカラー写真が挟まっていたという。

 それは父親と思しき男性と、2人の子供が写っている古い写真だった。3人がいるのは和室だが、その背後にはアイアンラックと呼ばれる棚があり、ぎっしりと大型の本が詰まっている。ただし本の種類までは分からない。3人の様子は見ようによっては、まるで何かを拝んでいるようにも映ったが、もちろん詳細は不明である。

 これだけで済めば別に問題もないのだが、Mが思わずIに連絡したのは、3人の顔に白くて四角い紙が、べったりと糊づけされていたからだ。わざわざ白い紙を写真の顔の大きさに切って、それで3人の顔だけを隠してある。写真は2枚あったがほとんど同じ構図で、どちらも三人は顔を潰されていた。

 本からは写真の他に、S県のコンビニのレシートも出てきた。その日付は今から十年前で、本の刊行年が28年前、写真が撮られたのは恐らくその間と思われる。ちなみに本の表四には、某古書店の値札シールが残っていた。

 ひょっとするとこの本は謎の写真とレシートを挟んだまま、次々と人手に渡っているのではないか。

 ……などという話を二人でしているうちに、すっかりMは怖くなったらしい。「返金を求めずに古本屋へ戻したい」と言い出したが、そういうわけにもいかない。かといって持ち歩くのも厭なので、新聞紙に包んで燃えるゴミに出したという。

 Mとの話のあとIは、インターネットで検索してみた。すると数人の遊女を撮った写真に行き当たった。その写真では真ん中の二人の顔が、なんと白く削り取られている。さらに調べたところ、「人が亡くなったら、その人物の写真の顔を削る風習が昔はあった」という書き込みが見つかった。

 二枚の写真を本に挟んだ時点で、あの親子は死んでいたのか……。しかし誰が、いったい何のために……。

 という風な得体の知れぬ気味の悪い話が、本書には載っているかもしれません。

IN☆POCKET「もうひとつのあとがき」より

【三津田信三】 (みつだ・しんぞう)
編集者を経て『忌館 ホラー作家の棲む家』で2001年デビュー。『厭魅の如き憑くもの』に始まる〝刀城言耶〟シリーズなどホラー・ミステリ作品多数。

『誰かの家』講談社文庫
ISBN: 9784062938785

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み