ムチャぶり光文社ふたたび

文字数 1,003文字

 以前、光文社からオファーをいただいた際、打ち合わせに編集長、単行本担当者、文芸誌連載担当者の三氏が現れ、それぞれ「アットホームな家族もので」、「スリリングで」、「キャラでスピンオフが作れるような」、「社会問題を提起し」、「もちろんミステリーで」、「読後感が爽やかで」、「どんでん返しは必須」など計九つほどのリクエストをもらった。プロットには難儀したが、それでも『秋山善吉工務店』という一編に結実させることができた。
 さて次回作のリクエストを、という段になって光文社は更なる難題を持ちかけてきた。
「シリーズになるようなものを書け」
 さて、皆さんは『レモ/第1の挑戦』という映画をご存じだろうか。80年代のアクション映画だがタイトルから一目瞭然、あからさまにシリーズ化を目論んでいたのだ。ところがその後続編製作の話は一向に聞かず、タイトルがとんだ恥さらしになったという次第。
 今回のリクエストを受けて、すぐにこの映画の顛末を連想してしまった。シリーズ化せよということは重版するのはもちろん、確実に売れる小説を書けという命令に他ならない。ジャンルによっては最初からシリーズ化前提で進行する企画も存在するが、一般文芸やミステリーでは寡聞にして聞いたことがない。失敗すれば大恥どころか版元に迷惑がかかる。
 そこで知恵を絞り、過去にシリーズ化を目論んだものの敢えなく頓挫した他人の作品を徹底的に分析し(本当に性格が悪い)、地雷を踏まぬようにして完成したのが『能面検事』である。幸いに重版もかかり、「では続編を」と正式にオファーされた時には正直ほっとした。
 さて現在はシリーズ三作目に着手しているのだが、連載第一回が掲載された時点でまたぞろ光文社から恐ろしいオーダーが舞い込んだのである。それは……。



中山七里(なかやま・しちり)
1961年岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。著書に『スタート!』『秋山善吉工務店』『ヒポクラテスの試練』『カインの傲慢』『逃亡刑事』『毒島刑事最後の事件』『セイレーンの懺悔』『テロリストの家』『隣はシリアルキラー』『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』『笑えシャイロック』『復讐の協奏曲』など多数。

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