第18回 最強「他人の不幸ソムリエ」が自信を持ってお勧めする検索ワード

文字数 2,289文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

前回書いた通り、自宅の10年点検が12月に決定した。


この世には、ほこVSたて、きのこVSたけのこ、デートノー財布ネキVS初デートサイゼニキ、そして賃貸VS持ち家など、終わりのない戦いがある。


何故終わりがないかというと、最終的に毎回「まあ時と場合、個人の考え方次第だよね」という結論になってしまうからであり、争うだけ時間の無駄とも言える戦いだ。

しかしここで「いやきのこを好きな奴は全員口が臭い」など、個人の好みに対し人格まで攻撃していいルールになっているのが、きのこたけのこ戦争のエグいところである。


決着のつかない戦いと言っても、賃貸VS持ち家に関して、世のマネーリテラシー高氏は大体「持ち家を買う奴は全員足が臭い」という意見である。


賃貸は家賃を払い捨てているが、持ち家であればローンを払い終われば家という財産が残る、というのが持ち家派の考え、というかハウスメーカー営業が5億%言う持ち家の利点である。


しかし、家を買う際大体の人間はローンを組み、ローンには金利がかかるため、元の家の価値より高い金額を払うことになる。

だがそれに反比例して、家の価値はよほど好立地でない限り買った瞬間から暴落していくのである。

よってローンを払い終わる頃には、その家に財産と言えるほどの価値はなく、むしろ大規模修繕が必要になり、ローンが終わりローンが始まる。親の顔より見たコブラで、永遠に負債を負う羽目になりかねない。


よって「財産を作る」「投資」という意味で家を買うのは、やめた方がいいということだ。

さらに、明日のことすらわからないこの乱世において、数十年ものローンを組むこと自体、ヤンジャンが常に1個は連載しているギャンブル漫画級にリスキーだという。


確かに「持ち家は払い終われば自分のもの」と言っても、それは払い終われればの話であり、もし払い終われなければ多額の借金だけ残る可能性がある。


私は無職を自称しているが、本業はエゴサーチャー、そして「他人の不幸ソムリエ」である。

ソムリエの資格を取るには「住宅ローンが払えなくなった人」の味も覚えておかなければいけないし、これは「未来の自分」と言う意味で後学にもなる。


住宅ローンが払えなくなるとどうなるかというと、結論からいうと自宅が差し押さえられ競売にかけられてしまう。

競売価格は購入額より大幅に安いため、売却額でローンが完済できることは稀で、自己破産などをしない限り存在しない家のローンを払い続けるというスピリチュアルに傾倒することになる。


しかしこれは最悪の事態であり、そうなる前に金を借りている銀行に、ない袖は振れまへんでんなと突然ミナミ弁になってローンの見直しを要求するか、強制競売になる前に自らの意志で任意競売し、少しでも自宅を高く売るなどの方法がある。


しかし、住宅ローンを滞納するレベルで困窮すると人は思考停止に陥ってしまい、再三の銀行や裁判所からの通告を無視、強制退去まで見て見ぬ振りをしたり、住宅ローンを返すために他所で金を借りるという、この果てしない多重債務坂に挑んで「完」になってしまう人も多いようだ。


つまり何事も初期消火が大事ということである。


しかし、住宅ローン破綻は、ギャンブルの借金などと違い、それこそコロナなど完全なる不測の事態で起こりうることである。

他人の不幸ソムリエ界では自業自得度が高い不幸ほど上質とされ、本人の過失ではない不幸は「雑味」とされ味が落ちる。

「FXで全財産失った人コピペ」が何十年経っても色褪せず、むしろコクが増し続けているのは、そういった雑味のない純粋な自業自得による不幸だからだ。


しかし住宅ローン破綻も、全く本人の責任がないわけではない。

何故なら、住宅ローン破綻は最初から無謀なローンを組んでいる人に起こりやすいからである。

まず完済時の年齢が「85歳」なのに、その年までフルタイムで働いている前提のローンを組んでいたりするのだ。

またボーナス払いの金額がやたら高いのも問題がある。

このご時世、ボーナスなど風の前の陰毛と同じであり、1回でも不況によるボーナスカットが起こればその時点で破綻が起こる恐れがある。


また夫婦二人共働き前提でローンを組むと、片方が離職や収入減しただけで相当苦しくなってしまう。

どれだけ波風の立たない半年噛み続けたガムのような人生でも、35年もあれば何か起きるものであり、それを何も起きないこと前提でローンを組むこと自体無理があるのだ。


よって住宅ローンを組むならあらゆる不測の自体が起こっても払えるレベルでゆとりのあるローンを組む必要があり、それが無理ならやめておいたほうが無難と言える。


しかし、持ち家にもメリットはある。それは次回詳しく書こうとは思うが、まず私の部屋の床は腐っている。何故なら私が腐らせたからだ。

これが賃貸だったら退去する時の修繕が大変なことになるだろう。

だが持ち家であれば、実質床腐らせ放題だ。


つまり、床を腐らせがちな人間は、それだけで持ち家を買った方が得ということである。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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