メフィスト賞2021年下期 印象に残った作品

文字数 2,111文字


座談会にはあと一歩届かなかったけれど、編集部員が読んで印象に残った作品を公開いたします。


『あの頃の遥か彼方から』

 一文目がまず素晴らしくて、心を摑まれました。一文目が良いと一気に引き込まれますし、テンションが上がります。文章がとても読みやすく、登場人物たちも魅力的です! その分、どうしても、最後まで読むと僕と先輩の話をもっと読みたかったと感じてしまいました。少女とちびっ子たちのパートを、僕パートと分量面で差をつけた方が読みやすくなるのではないでしょうか。

 

 

『沙羅仏陀』

 冒頭の一文も、孤島で殺人事件、という王道の設定に加えられた変化も魅力的で、楽しく読むことができました。テンポのよい会話もいきいきとしていて、うれしい気持ちになりました。小説の中に出てくる人物たちの書き分けがよりクリアになれば、さらに力強いミステリ、物語が生み出されるに違いない! と感じました。次の作品、楽しみにしております。

 

 

『犠牲宣告』

 じっとりとした読み心地のホラー短編集です。怪異の怖さというよりも日常が変質するような気味悪さに魅力があります。作者の繊細な観察眼が感じられるのですが、どの作品も導入部分で終わっているように思えました。そこからどう展開していくのか、長い作品に挑戦していただきたいと思いました。

 

 

『ピーター・パンの分身』

 人物設定や配置、シーンの描写、台詞がキャッチーでうまい。描こうとするテーマもしっかりあってとてもいいと思います。ただ、今はおっと思わせる魅力のある「入り口」が用意されているだけなので、次はその「入り口」の奥、部屋の中を魅力的に見せたり深めることを目指してみてください。冒頭で謎をにおわせたなら、魅力的なオチをラストに。次回作もお待ちしています!

 

 

『ヴィシュタイン・コピーライト』

 作者が作品世界を愛し、楽しんで描いていることが伝わってきました。読み手にも音楽知識が必要かと思いましたが、親しみやすい物語でした。一段落ごとに一行あきが入る特殊な書き方ですが、その効果は感じませんでした。物語は展開が遅く、やや冗漫。

 

 

『あなたはイカを信じますか?』

 まず、タイトルがとても良い! と思いました(もちろん「イカゲーム」の配信前に応募された作品です!)。奇妙な「青春小説」ではなく、「奇妙な青春」小説になっているところもいい!と。読み進めるにつれ、自分がどんどん、この小説の世界に引きずり込まれている! と、わくわくもしました。いったん引きずり込んだ読者の腕を、ぎゅっとつかんだまま離さない展開が、後半から終盤にかけて加えられたら、より強力な物語になるように思います。次の作品が、楽しみです。

 

 

『陸抗』

 中華歴史小説を丁寧に悠々と描いた作品です。知的な作風で文献にも多くあたっているのだろうことが伝わりますが、エンタテインメントとして楽しむには、外連味やキャラクターの個性が控えめだと感じました。

 

 

『スケープゴート』

 生々しさに魅力がある作品。文章に疾走感があり、ページを繰らせる力があります。現実の事件を彷彿とさせる不審死を核にしていますが、事件を解決することが全体の軸になっていないので、物語としては散漫な印象です。一本筋の通った物語に挑戦していただきたいです。

 

 

『「怪異など存在しない」と石過玲は言った』

 「君が幽霊を見るというのは本当かい?」という摑みのうまさ、そこから未来の自分が影となりメッセージを送っていることに気付くという流れは読者を一気に作品世界に引き込んでくれます。しかし、その後の展開がトーンダウンしてしまい、盛り込まれるネタも少なかったのが残念です。著者の好きな作品とご自身の作風はマッチしていると思いますので、ぜひ次回は最後まで読者を飽きさせない工夫を!

 

『理由』

 知り合いの「自殺未遂」という事件が発端となる物語は、キャッチーな摑みで冒頭から一気に引き込まれます。目まぐるしい展開をコンパクトにまとめてくださった作品でした。TwitterやLINEグループなどのSNSがうまく使われており、日常の世界とリンクさせられていて、どんどん読み進めました。ただ、多くの人物を登場させていますが、その分この短さでは回収しきれておらずもったいなく感じました。

 

 

『だけど願いはかなわない』

 欠落や悲しみを抱えた登場人物たちが皆、自分と同じ地平の先に暮らすように生き生きと描かれているところが素晴らしいです。ストーリーにもっと起伏があると、一作としてまとまりが良くなると思います。例えば、視点を今ほど変えずに、主人公を絞って書いてみると良いのではと感じました。

 

 

『お仕置き、する?』

 先が気になる展開の数々に、一気に読まされました。陰湿ないじめの描き方もうまくて、読んでいてしんどいですが、読み応えがあります。ラスト、真相がわかったときに「いじめ」というテーマについて著者なりの答えや問題提起を描いてほしかったです。




(※応募受付順)



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