「群像」2021年2月号

文字数 1,489文字

編集後記は、文芸誌の裏方である編集者の顔が見えるページ。

このコーナーでは、そんな編集後記を選り抜きでお届けします。

「群像」2021年2月号より

バーが好きです。入社して先輩に連れていってもらった店に、15年来夜勤のように通っています。バーというのは不思議な空間です。お酒と煙と音楽。兄弟が多かったので持てなかった一人部屋のように過ごすときもあれば、たまにバーテンダーと向かい合うと、友人の家で楽しい時間に身を委ねている気分になります。今月から、「群像」にも不思議なバーがオープンします。斉藤倫さんの「ポエトリー・ドッグス」で出すお通しは、なんと詩。マスターの人柄もよさそうなので、みなさんにも常連になっていただけるといいのですが。


今号の巻頭特集は、新年短篇特集。山尾悠子、町田康、沼田真佑、長嶋有、田中兆子、川上弘美、円城塔、上田岳弘、各氏からの、8つの豪華なお年玉です。「ケアの倫理」をめぐる、小川公代さんの短期集中批評第2回は、オスカー・ワイルド、三島由紀夫、多和田葉子という、共感とケアの連鎖によって生み出されてきた文学を見ていきます。『「国境なき医師団」を見に行く』が文庫化、続編『ガザ、西岸地区、アンマン』の単行本刊行が1月中旬に控えているいとうせいこうさんと、「国境なき医師団」で看護師として紛争地で働かれた白川優子さんの対談も、「ケア」という概念を考えるひとつのきっかけになるはず。蓮實重彥さんの「ショットとは何か」がついに完結。蓮實映画批評における最重要概念の姿が顕わに。樫村晴香さんの読み切り批評「人間–でないもの」。しばし巨大な思想の渦に呑みこまれる心地よさ。町屋良平さんの連作「ほんのこの日」。毎回同音異義的に少しずつずれていくタイトルも楽しみのひとつです。articleは2本。小澤身和子さんが柴田元幸さんに、英語版「MONKEY」について、宮田文久さんが木村衣有子さんに、「小さなメディア」について、それぞれ深いインタビューをしていただいています。「ウルフ・チャット」ふたたび。小澤みゆきさんと関口竜平さんによる、V・ウルフについてのエトセトラ、今回も充実のおしゃべりです。「論点」は、秋草俊一郎さん(世界文学)、石戸諭さん(批評の「場」=『ゲンロン戦記』について)、立木康介さん(J・ラカン)、森元斎さん(抵抗の思想)による4本。コラボ連載「DIG 現代新書クラシックス」では、山口尚さんが、中島義道さんの『「時間」を哲学する 過去はどこへ行ったのか』を取り上げています。随筆と書評も盛りだくさん、こちらの「お年玉」もお忘れなく。


本誌12月号掲載、乗代雄介さん「旅する練習」が芥川賞の候補になりました。毎年ちょうど候補作発表の時期が、M–1とかぶります。今年も大いに笑いましたが、そんななか、ウエストランドのネタ中の「お笑いは今まで何もいいことがなかったヤツの復讐劇なんだよっ!」という言葉が心に刺さりました。評価する人/される人、それぞれが真剣でかつトップレベルの勝負だからこそ、そこから生まれる言葉の熱量にしびれます。選考会も楽しみです。


今号もどうぞよろしくお願いいたします。


(「群像」編集長・戸井武史)

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