第33回/今からでも入れるかどうかは分からん保険のお話

文字数 2,379文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

先日久しぶりに同級生に会ってきた。


お互い今年度で四十路であり、話題はすっかり美容から健康にシフトしたが、一方で「悪口」と「二次元」など小3から全く不動の話題も多くて安心する。


しかし、油断した脇腹を「貯金」や「保険」の話が刺してくるので油断がならない。

学生時代、周囲が真面目に進路について考えている中、一人だけ「漫画家になる」といううわ言を言い続けてきた。

それから約四半世紀後の現在、周囲が真剣に老後について考えている中「漫画家をやっている」という、大して変わっていないように見えて確実に状況が悪化している、トリックアートのような状態だ。


だが自慢ではないが、保険には人並み以上入っているつもりだ。


そう思っていたが、私個人にはそんなにかかっていないということに最近うすうす感づいてきた。


何故なら私が保険にやたら入らされているのは、もしもの時の備えではなく、保険関係の仕事をしている夫のノルマ達成のためである。


社会的信用のない人間が消費者金融にすら相手にされず、闇金に最初に利子を引かれて2万7千円しか貸してもらえないように、保険も本体に価値がなければそんなに多額の保険金をかけても仕方がないのである。

その上、健康診断に毎回何かしら引っかかるため、入れる保険がさらに限られてきた。


つまり私に保険をかけても大してノルマの足しにならないため、気づけば私より価値があり、尿酸値やコレステロールで引っかからない「家」の方にばかり保険をかけているという状態なのだ。


よって、これだけ毎年多額の保険料を払っているのに、病気になったら普通に困るし、私が死んでも特に何も返ってこない可能性が高い。


保険とは一体何なのか、何のためにかけるのか、改めて考えさせられる。哲学的な状態だ。

ちなみに「考えさせられる」というのは、何も考えていない時に使われる感想である。


保険に関しては必要派と不要派がおり、「考えた上で無保険」という、結果的に無頼派と同じ状態な人もいる。

実際保険に入った方が良いか悪いかは、「人による」としか言いようがない。事故が怖くて外に出られなかったり、がん検診に年収のほとんどをつぎこんでいるというなら保険は必要である。


結局一番ダメなのは、「自分で考えない」という状態である。

どれだけプロに聞いたところで、結局自分に何が必要かは自分にしかわからないのだ。


専門家を頼るのは良いが、専門家の意見を元に自分で考えて自分で決めなければ無意味である。

むしろ自分で考えない奴というのは、専門家にとってカモだったりする。相手も商売なので「良い保険見繕ってくれ」と言われたら、自社にとって利益率が良い商品を持ってくるに決まっている。

そこで自分で考えれば、「あれれおかしいぞー」と勘の良いガキのように難癖をつけることができるが、考えないのであれば「じゃあそれで!」と決めてくれるので営業にとってこれほど楽なことはない。

こういうタイプなら、どさくさに紛れて独身者に学資保険を積ませることも可能かもしれないのだ。


それ以前に、保険や投資などをやるなら、営業や窓口を通さずネットで自分で契約しろ、というのが世のマネーリテラシー高夫の総意である。


これは保険や証券会社の営業が全員極悪で、ヒンデンブルグ国債など、聞いたことない上に明らかに爆発炎上しそうな商品や、死亡時なぜかこちらが罰金を支払わなければいけないクソ保険を勧めてくるからではない。


たとえ商品が良くても、リアル金融窓口を使うと「手数料」が割高になるため、同じような商品を買うならネット証券などを使った方が得だからである。


特に投資は何かというと手数料を取られる世界であり、リアル証券会社を通すだけでネットより手数料が割高になる上、営業も何気に手数料が高い商品を勧めてくることがあるらしいので、自分でネット口座を開いて自分で選んで買った方が良いらしい。


「そういうのはよくわからないし面倒だから人にやってもらいたいんだ」という人は、そもそも投資に向いていないような気がする。


だが、私はそれがわかっていても、夫を通して保険に入るしかない。おそらく手数料も結構高いのだろうが、考えても仕方がないのでカーズ様状態になっている。

自分で考えるのは大事だが、例外として「親族が保険関係者」の場合は考え出すと心が病むので「考えない」ことが大事になってくる。

もしくは病むことを想定して、精神疾患を網羅した保険に入ってから考えるようにしよう。


そういえば先日会った友人が「外貨積立保険を始めた」と言っており、夫もそんな商品があると言っていた。

その時は「あー外貨ね」と言ったが、もちろん意味はわかっていなかったので、家に帰っていつも通りネットで調べてみることにした。


こういう時はまず「デメリット」で調べるようにしている。

営業はデメリットについてはあまり説明しないし、先にメリットばかり見ると、そちらを信じたいのでデメリットから目をそらすようになるからだ。


調べて見たところ、外貨積立は「為替リスクを理解できてない人には向かない」そうである。


この時点で私には向いていないと理解した。

何事も「わからないのにやる」のが一番よくない。

そして営業は、「わからなくても私たちが全部やるので大丈夫です」と言ってくるから怖いのだ。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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