「群像」2020年8月号

文字数 1,341文字

「サンデー毎日」の森功さんの連載「鬼才齋藤十一」を、最近毎週楽しみに読んでいます。「新潮の天皇」と呼ばれた同業の先達についての興味もさることながら(はじめは書庫係だったとは!)、本誌連載中・大澤聡さんの「国家と批評」ともまた違ったノンフィクションの手法で書かれていて、齋藤十一やまわりの人間たちを通して戦前戦時下の生活の実相を垣間見るのが面白いのです。


こうして紙の雑誌の定点観測が始まると、その周囲にも目を通します。「シン・東京2020」もあるし、保阪正康さんの新連載も始まっている−−「群像」でも今号から「Nの廻廊」がスタートします。


保阪さんと保守思想家N氏との意外とも言えるつながりの淵源は、昭和二十七年の春の札幌、越境通学をする列車の中にありました。ノンフィクションとも評伝とも言い切れない、これまでの保阪作品とは一線を画したチャレンジングなものになるはずです。


初夏短篇特集では、9名の方に寄稿いただいています。短篇は「雑誌の華」というイメージがあります。中篇長篇よりも色濃く「いま」が切り取られていることが多く、それが雑誌というメディアの性格に合っているからかもしれません。前回の短篇特集はリニューアル1月号でしたが、川上弘美さんや町田康さんなど、そのときと作品世界が重なってくるのも面白いです。


巻頭の青山七恵さん「はぐれんぼう」はいただいた短篇から新連載に発展したもの。新しいのですが、はじめからどこか懐かしさも感じてしまうのです。「群像」では今後も定期的に短篇特集を組んでいきます。


大澤真幸さんのライフワークともいえる「〈世界史〉の哲学」が「再開」。いよいよ現代篇となり、本誌人気討議の「二〇世紀鼎談」とも大いに共鳴反響していくと思います。


怒濤の新連載を締めてくれるのは、くどうれいんさん「日日是目分量」。自費出版から始まって異例のヒットとなった『わたしを空腹にしないほうがいい』は社内でも打たれる人多数。毎月岩手からエッセイを届けていただきます。


小川公代さんにはウルフやキーツなどの文学作品を通じて、「ケアの倫理」を考察していただきました。きっかけは創作合評の際に「エセンシャリズム」に触れていただいたこと。ジェンダーについて様々な知見が求められるいま、必読の論考です。


高原到さん「失われた「戦争」を求めて」は、戦争批評第二弾。次号予定している「戦争特集」内で三部作が完結します。


前号「批評特集」でお休みした「論点」は、海猫沢めろんさんに「コロナと子供」、松村圭一郎さんに「国家とアナキズム」について論じていただいています。


文芸誌初登場、「お笑い第七世代」として活躍しているお笑いコンビ「かが屋」の加賀翔さんに随筆をお願いしました。


新型コロナウイルスの影響により2号連続で中止となっていた「創作合評」が復活しています。部屋の換気をし、参加者の距離を取り、評者のお三方の間には透明のビニールで仕切りを作るなど対策を講じました。リモートにも慣れましたが、やはり直接会ってお話をうかがうのは格別だとあらためて痛感しました。終息を祈ります。 


(「群像」編集長・戸井武史)

7月7日(火)発売の「群像」2020年8月号編集後記より抜粋。

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