第24回

文字数 2,755文字

「密は避けよ」「旅には出よ」と政府の旗揚げゲームめいた指示に踊る2020年・秋。

連休には各地が観光客で賑わうニュース映像が踊り、空気は変わってきたのかもしれません。


観光もいいけど、でもボクらはやっぱりひきこもり。

そうは思いませんか?


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、困難な時代のサバイブ術!

最近『コンビニは通える引きこもりたち』という新書を発見した。

中身は未読なので詳しいことは語れないが、ひきこもりと言えば若者特有の病(びょう)で、理由は不登校、もしくは就職失敗で、部屋から一切出ず、母親のことは「ババア」と呼び暴力も辞さないが、父親とはエンカウントしないことに命を賭けている生き物、というイメージがあるかもしれない。


確かにそういうひきこもりも存在するが、何せモーニング娘。の初期メンも今や全員アラフォー、リーダーにおいてはアラフィフである。前にも言ったが就職氷河期時代にひきこもりになった若者も今や中年以上なので、ひきこもり=若者というイメージがまず間違っている。


また不登校や就職失敗で、社会に出ぬままストレートでひきこもり、そのまま中高年になった者だけではなく、10年20年と外で働いてきたが何らかの原因でひきこもってしまう、遅咲きの華だってもちろんいるのだ。


さらに、ひきこもりのいる家庭では必ずしも暴力が発生しているというわけではない。

もちろん子どもがひきこもっていると家の空気は悪くなりがちだが、親の小言に対し暴力ではなく「ネットで求人情報を見ている」「ボイストレーニングをはじめた」などという「やる気はあるっす!」という姿勢でやりすごしている穏健派も、ひきこもりには多い。


このようにオタクの「バンダナにアニメTシャツ、指ぬきグローブ」という、もやは最後はオタクですらなく京極夏彦が混ざったままイマイチ刷新されていないイメージと同じように、「ひきこもり」のイメージも四半世紀前から意外と更新されていない。


ひきこもりも「多様化」の時代であり、この本ではそんな「現在のひきこもり」について書かれているようである。

内容も興味深いが、秀逸だなと思ったのが『コンビニは通える引きこもりたち』というタイトルである。

何せ、私自身がコンビニには通うひきこもりだからである。無職になって2年余り、外出といえば9割コンビニである。


逆に言えば「コンビニにも通えないひきこもり」もいるということであり、ひきこもりといっても、そのこもりっぷりにはレベルがあるということだ。

私のようにコンビニ他、何かしら用があれば外に出るひきこもりもいれば、家どころか部屋からも一切出ない者もいる。

他者との関わりについても、必要とあらば外部の人間と話すものもいれば、リアルの人間とは目も合わさないのに、ネットの中では「兄ィ」と呼ばれブイブイ言わせている者もおり、リアルでもネットでも一切他人とは関わっていない真性のひきこもりも、もちろん存在する。


このように、ひきこもりにもタイプと程度があり、コンビニに行けるひきこもりは、ひきこもりの中でも軽度、逆に言えば四天王最弱、ひきこもりの面汚しと言っても良い。


ちなみに他にも店はいろいろあるのに何故「コンビニ」かというと、コンビニには食料品のみならず、雑誌や簡単な日用品も売っているので、そこに行けばひきこもりとして必要な物資が大体調達できるので便利、というのもあるが、単純にひきこもりは「コンビニが好き」な気がする。少なくとも私は好きである。


所用でどうしても外出しなければいけない時も、「ついでにコンビニに寄れるではないか」と己を奮い立たせるぐらいには好きである。

家の中で出来る娯楽も多いが、大体がネット、ゲーム、読書と種類は限られているため単調になりがちだし、ネットで情報はいくらでも手に入れられるが、物理的新情報には非常に乏しいのである。


そういう生活を長く続けていると、「最新のお菓子と飲料が並んでいるコンビニ」というのはもはや一大エンターテイメントでありイリュージョンなのだ。

たまにチュロスも売っているので、もはやディズニーランドと言っても過言ではない。


このようにコンビニというのは、ひきこもりにとって唯一と言っていいほど前向きに外出できる場所であり、貴重な社会との接点とも言える。


だが逆に、このコンビニこそがひきこもり生活最大の敵と言っても過言ではない。


自分で生活費を稼いでいるひきこもりにとって、生活コストを下げることは非常に重要である。

生活費が少なければ少ないほど、ひきこもりでいられる期間が伸びる計算になるからだ。


ちなみに「ひきこもり」自体がコスパの良い生活スタイルであり、確かに今は通販とかガチャとかで家にいながらいくらでも金を失えるようになってしまったが、それでも外に出るよりは格段に無駄金を使わないのである。


外に出てしまったらそれこそ「ついでにコンビニに寄ろう」という発想になってしまうし、コンビニに寄ったら、絶対に想定以上の金額を使ってしまう。

私も、1秒でも長くひきこもるために家計の見直しをしたところ、この「コンビニ費」がかなり高額であることが発覚した。

大げさではなくコンビニに行くのさえ止めれば、ひきこもれる期間は大幅に延長されるはずである。


つまり「コンビニには通えるひきこもり」というのは、ひきこもりの中でも程度が浅い方で社会復帰の見込みもあると言えるが、ひきこもりとして生きていきたいなら「コンビニにすら通わないひきこもり」にまで自己を高めていかないといけない、ということである。


実際、コンビニがひきこもり道を阻む悪とわかってからコンビニに行くことを控えているのだが本当に平気で10日ぐらい一歩も外に出なくなり、家族以外と話すことがなくなった。


社会人としては大幅に後退しているがひきこもりとしては大きな前進である。

四天王最弱から、ワースト2ぐらいのひきこもりになれる日は近い。

★次回更新は10月16日(金)です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

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