『創竜伝』完結記念エッセイ④「田中芳樹さんの凄さ」/担当編集K

文字数 2,424文字

田中芳樹さんの大人気伝奇アクション小説『創竜伝』の完結編第15巻が文庫化です!

完結編文庫化を記念して、歴代担当編集者や大ファンの編集者が、ノベルス版刊行時(2020年)に寄せてくれた「『創竜伝』とわたし」のエッセイを再掲載! 

凄まじい超能力を秘めた竜堂四兄弟も思わず絶句する「伝説」をここに‼


第4回は、第9巻~12巻の担当編集K氏による、田中芳樹さんの超人的な制作秘話とその驚愕の知識量を綴った「田中芳樹さんの凄さ」です!

「田中芳樹さんの凄さ」/担当編集K

『創竜伝』の完結、まさに感無量です。

1987年、昭和で言うと63年のスタートで、完結したのが2020年令和2年ですから、平成がすっぽり入ってしまったことになります。その間、編集者として長く田中芳樹さんと一緒にお仕事をさせて頂きました。


「伝奇小説は完結しない方がよい」という説があります。

私自身も長大な物語が大好きで、著者がなくなった後も別の方によって書き継がれているあの大河長編なども最新巻まで読んでおります。永遠に終わらないで書き続けられる物語というのもいいものです。

でも、『創竜伝』は完結して欲しかった。なぜなら、『創竜伝』は、田中さんも仰る通り、伝奇小説であるとともに、家族小説でもあるからです。

竜堂四兄弟の未来がどうなるのかは、私もたいへん気になるところでした。最終巻の15巻は編集者という立場を離れて、一読者として楽しませていただきましたが、いままでの14巻で語られてきた物語が怒涛のようによみがえってきて、まさに圧巻でした。

いままで登場したあの人物や、この人物がいまどうしているのか、四兄弟以外の人たちのその後もしっかり描かれます。

私は個人的に共和学園理事長がどうなったのか気になっていたのですが、彼もしっかり登場します。


ところで、拙文を読んでくださっている方は、おそらく既に最終巻を読んでおられる方が大半だと思います。

もし周りの方で『創竜伝』が完結したことを知らない方や、まだ読んでいない方にぜひお知らせしてくださると大変嬉しいです。


担当をさせていただいていた時の思い出はたくさんありますが、何よりも驚いたのは、「原稿空白行の不思議」です。


これは田中芳樹さんを担当したすべての編集者が一様にびっくりするのではないでしょうか。

田中さんは今や少数派となってしまった手書きで原稿用紙に小説を書くスタイルです。一字一字すごく丁寧に書かれた極めて読みやすい原稿なのですが、編集者に手渡される前の段階の原稿には、ところどころ数行から十数行の空白が空いているのです。それがいざ手渡される段階になると、ぴったりその空白が埋められております。余分に飛び出したり、空白になっている行などはありません。


田中さんの頭の中では、この描写は何行、ここは何行と出来上がっているので、飛ばしておいても後から埋められるということなのでしょうが、ワープロを使用していればともかく、手書きでそういうことをされている作家は他に知りません。


それから、もう一つ驚いたのは田中さんの読書量です。

それもマイナーな本からマニアックなものまで、「どこでそんな本を見つけ出しましたんですか」と聞きたくなるほど珍しい本もよく読まれております。

そうした本を貸していただくことがあるのですが、中でも印象に残っているのは、ロシアの作家がモンゴル帝国のことを書いた歴史小説です。主人公はジョチウルスの創設者のバトゥで、ロシアの作家が書いたものにもかかわらず、爽やかで凛々しい若き武将として描かれていました。

田中さんと言うと中国の歴史が好きというイメージをお持ちの方がおられるかと思いますが、歴史に関することなら地域を限らずにお好きなのです。


そんな田中さんなので、ついついその知識に頼ってしまうこともありました。

他の作家の方の作品を編集していた際、どうしても確認がとれない中国史に関する記述があって困った時のことです。当時はインターネットなど影も形もない時代ですから、ある出来事からそれを行った人物を調べるような「逆引き」は、今では考えられないほど困難でした。

本当に困ってしまって、つい田中さんに電話をしたところ、たちどころに正解を教えてくださったのです。お礼を言って電話を切ったら、30分後に会社にファックスが届きました。

そこには、調べていた人物に関する手書きの系図と資料が記されていました。本当に感謝したのは言うまでもありません。


さて、『創竜伝』は完結しましたが、今後も田中さんは次々と小説を書いていかれることと思います。

ジャンルを問わずに小説が好きな田中さんですから、次は予想もしないジャンルにチャレンジされるかもしれません。

今は何よりもそれが楽しみです。

伝説シリーズの完結巻、待望の文庫化! 

四兄弟とともに旅をしてきたすべての人へ。


富士山は大噴火、日本政府は機能不全。京都幕府を開いた怪女・小早川奈津子は新たな野望を抱き猛進する! 未曾有の大混乱の中、異形の者たちは人間を無慈悲に襲い続けた。人類の未来を背負った竜堂四兄弟は、牛種との決戦の地・月の内部へ。ついに正体を現す最兇の主君。その口から語られた「五〇億人抹殺計画」究極の狙いとは? 恐るべき強敵を迎え、始・続・終・余、四人の竜王の死力を尽くした戦いが始まる!

田中芳樹(たなか・よしき)

1952年熊本県生まれ。学習院大学大学院修了。1978年『緑の草原に……』で第3回幻影城新人賞を受賞してデビュー。1988年『銀河英雄伝説』で第19回星雲賞、2006年『ラインの虜囚』で第22回うつのみやこども賞を受賞。活躍はSFロマンにとどまらず、中国歴史小説やミステリもものし、壮大な物語と魅力的な登場人物は男女問わず多くの読者を楽しませ続けている。コミック化、アニメ化された作品も多い。代表作に『創竜伝』『薬師寺涼子の怪奇事件簿』『銀河英雄伝説』『岳飛伝』『アルスラーン戦記』などがある。

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