東大生本読みのオススメ「現代ホラー小説」10選
文字数 3,215文字
今、どんな作品を読んだらいいの?
そんな疑問にお答えするべく、大学生本読みたちが立ち上がった!
京都大学、慶應義塾大学、東京大学、早稲田大学の名門文芸サークルが、週替りで「今読むべき小説10選」を厳選してオススメします。
古今東西の定番から知られざる名作まで、きっと今読みたい本に出会えます。
残暑がまだまだ厳しい季節ということで今回はホラー小説を揃えた。王道の怪談チックなものからミステリー、SF、さらにはモンスターパニックまで。共通するのは全て現代を舞台にした小説であり、従ってどこか現代的な恐怖を伴っていることだ。もし自分がこの小説の登場人物なら……否、いっそ現実がこうなったら。そんな空想に身を任せて残暑を乗り切ってみてはどうだろうか。
(執筆:新月お茶の会)
新月お茶の会(しんげつおちゃのかい)/東京大学
ミステリ・SF・ファンタジーを掲げるエンタメ系総合文芸サークル。この情勢下でも地道に活動を続けて新入生を確保することに成功し、何とかサバイブ。会誌『月猫通り』の最新2171号(特集:ライトノベル新人賞回顧、ミステリ新刊回顧)はDLsiteで電子版販売。noteもやってます。
①『予言の島』澤村伊智
かつて一世を風靡した霊能者・宇津木幽子が最後の予言を残した場所、霧久井島。予言に曰く、二十年後≪霊魂六つが冥府へ堕つる≫という。天宮淳と幼馴染たちが興味本位で島を訪れた翌朝、滞在客の一人が遺体で見つかる。しかしこれは、予言に基づく悲劇の序章に過ぎなかった……。絶海の孤島で起きる事件の、謎を解く物語ではある。しかしすべての謎が解けた果てに明かされる真相は、おぞましい恐怖を伴っている。
②『呪いに首はありますか』岩城裕明
呪いは恐ろしい物である。その呪いを「相棒」として、ともに協力して解呪を目指すのがこの物語の主人公だ。三十歳までに死ぬ呪いがかかった久那納家に生まれた二十八歳の恵介は「心霊科医」として患者を助ける傍に、幽霊をワクチンとして集めるという解呪法を実践している。タイムリミットが迫る中、恵介と呪いの関係は思わぬ方向へ向かう。表紙は恐ろしいし呪い自体も凶悪だ。しかし、切なく優しい呪いも時にはある。ホラーがあまり得意ではない人にもおすすめだ。
③『淵の王』舞城王太郎
「あなた」「君」といった二人称で語られる登場人物たちの人生、そして忍び寄る影。しかし、この語り手はいったい誰なのだろう? ホラーは人間の愚かしさが最も剥き出しになるジャンルといえる。しかし、この小説が描いているのは、そういった人間の根本的な愚かさが愛おしさに反転する瞬間だ。ドライブ感がありながらもしっとりとした文体で、恐怖の中にある純粋なエモーションを捉えようとする舞城王太郎は、やはり「愛」の作家なのである。
④『残穢』小野不由美
恐怖にはいろいろある。そのなかでも日常を侵食されるような感覚を味わえるホラー小説といえば、やはり本書だろう。主人公は読者から届いた手紙をきっかけに、奇妙な音の原因究明に乗り出していく。その過程で主人公がともに調査することになるのが、平山夢明や福澤徹三といった実在の作家たち。派手な驚かしはないが、だからこそ主人公に起きた出来事には現実味がある。読み終わったころには、「本当にありえるかもしれない」怖さが付きまとうことだろう。
⑤『Another』綾辻行人
妖怪や幽霊は勿論怖いものだ。しかし同様に、いやそれ以上に人間を恐怖させるのは「わからないこと」だ。ページを開いた瞬間読者は、転校生である主人公と同じく、何が起きているのかさっぱり分からない世界に突如放り込まれる。なかなか掴めない恐怖の実体に翻弄されるうち、徐々に明らかになる作中世界の恐ろしいルール……。現代ミステリーの謎解きとホラーを見事に融合させた傑作だ。
⑥『祭火小夜の後悔』秋竹サラダ
ホラーとミステリ、この両者の関係は「謎」という点で切ってもきれないものがある。本作『祭火小夜の後悔』はこの「謎」を通じてホラーとミステリ、両方のカタルシスを感じることのできる類い稀なる作品だ。まずは第一話の「床下に潜む」を読んで欲しい。旧校舎の床下に潜む怪異に喰われてしまうという怪奇現象について、まさに「反転」の美しさが味わえる一作である。
⑦『天使の囀り』貴志祐介
死恐怖症、異常食欲、ウアカリ、自己啓発セミナー……『天使の囀り』の恐怖を構成する要素を並べてみれば、本作が単なるホラーに収まらない独特の雰囲気を持っているのが分かる。本作は豊富な科学知識でリアリティを底上げしたSFホラーであり、生き辛さを持っただけの一般人が現代日本にいながら道を踏み外す悲劇を描いた社会派でもある。何より圧巻なのが全ての帰結としてラストで立ち現れる光景のグロテスクさだ。これほど生理的嫌悪感に直結する恐怖はなかなかない。
⑧『裏世界ピクニック』宮澤伊織
インターネット時代の恐怖「ネットロア」は昨今ますますメジャー化し、アングラ電子掲示板を飛び越え映画やファンアートができるまでになった。『裏世界ピクニック』もそうした潮流に棹さす一作だが、恐怖は背景に置いて女性キャラの関係性を主軸にしたことで数段アクロバティックな構成になっている。さらに遠景には知性の翻訳可能性を巡るSF的な仕掛けが見える。百合とネットロアとSFの奇妙だが高度な三位一体。現代日本SFが産んだこの独特な怪異を是非味わってほしい。
⑨『ミザリー』スティーブン・キング
もし、身近なあの人が、恐ろしい殺人鬼だったら――。一見、普通そうな表情の裏には、理解しがたい異常な感情が眠っていたとしたら――。狂信的なファンに捕まったベストセラー作家が、彼女の望む続編を書くまで監禁される。『ミザリー』はモダンホラーの巨匠・スティーブン・キングの傑作。誰にでも起こりうる日常の崩壊を、ストーカーという現代的な恐怖を利用しながら、読者に恐怖を伝染させようとする。極限状態に置かれた主人公の心理を巧みな描写は、キングの十八番だ。
⑩『プロジェクト・ネメシス』ジェレミー・ロビンソン
今年公開の『ゴジラVSコング』は怪獣プロレスの極限を追求したようなド迫力の超大作だったが、実は同作と同じくアメリカ出身のド迫力怪獣小説があるのをご存知だろうか。メイン州の山中に潜む怪しげな軍事施設。培養槽で作られたモンスター。研究員を殺戮し脱走したそれは、民間人を食い殺し、州軍を蹴散らし、やがて大都市ボストンへ上陸する。B級モンスターパニックの美点を的確に押さえ圧等的な描写力でまとめ上げた傑作。この手の小説の最高峰と言っていいだろう。
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