第63回

文字数 2,555文字

夏が来たといってもいいのではないか。


ひきこもり同士諸君は、梅雨でカビないよう除湿を使いこなそう。

文明の力で四季折々の快適な籠城ライフ!


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

そんなことより肛門日光浴である。


最近やたら「日光を浴びた方がいい」という話をしてきたのは、全て「肛門日光浴」の話をするためだけの前フリであったし、読者もそれを期待していることも分かっていた。

それにもかかわらず何故か毎回書いている途中で忘れてしまい、何か小難しい話をして終わってしまうのである。


明らかに私が肛門日光浴の話をしようとすると、それを阻止する「何らかの組織の力」が働いているとしか思えない。

このままでは永遠に肛門日光浴の話が出来そうにないので、もう冒頭でしてしまうことにした。

もちろん、何らかの組織の妨害電波が届かないように頭にアルミホイルを巻いている。


このように、コロナの自粛期間中に陰謀論にハマってしまった人が結構いると聞いている。


ちなみに肛門日光浴の話をしたくて健康のためには朝日を浴びた方がいいという話をしていたのは本当だが、多分何らかの組織の力は働いておらず、毎回本気で忘れてしまっている説の方が今のところ有力である。

陰謀論を証明するには、他にも証拠となるモデルケースが複数必要となるため、「我こそは肛門日光浴の話をしようとすると記憶が飛ぶ」という人は名乗り出てほしい。一緒に組織と戦おうではないか。


おそらく、こういうことを言っている人とはあまり仲良くなりたくないと思う。

陰謀論にはまると、突拍子もないことを早口で言い出してしまい「ちょっとアレな人」として敬遠され孤立してしまう。

そうなるとますます考えを正す機会が失われるうえ、「誰も信じてくれないのはすでにみんな洗脳されているから」とさらなる陰謀論にハマるという無限ループになってしまい、最終的に自室に魔法陣を描き出したり、悪魔祓いと称して母親の頭を岩塩で叩こうとしてきたりする。

ちなみに何故か父親は叩いても反撃されないぐらい衰えるまで叩かなかったりするのだが、それも「刻(とき)が来るまでまて」というお告げによるものなので仕方がない。


ここまでイッてしまう人間は少数派かもしれないが、自粛期間中にネットでネガティブな情報ばかり見てメンタルの調子が悪くなったという人は結構多いのではないだろうか。


その原因はまず家にいる時間が長くなり、ネットを見る時間が増えたからである、そしてコロナにより「不安」な気持ちになっていたからだ。


人は不安になると、自分は何かにいっぱい食わされているのではないか、という想像をするようになってしまうという。

そして、自分から肛門日光浴の記憶を奪っている謎の組織の正体を突き止めに、アマゾンで飛ぶのではなくネットの海原に潜ってしまうのである。


またネットというのは、様々な情報が自動的に目に入っているようでいて、実は自分で選んで見ているものなのだ。

つまり「自分の見たい物をみている」のである、「騙されているのでは」と思ったら、騙している奴を何とか見つけようとするし、見つかったらそいつが犯人である証拠を集めようとし、それを否定する意見は見ようとしないのである。


よって一旦偏った考えに支配されると、ネットはそれをより強固にするものでしかなくなってしまうのだ。


また人間はネットで情報を見ている時、ポジティブな情報よりネガティブな情報の方を追ってしまいやすいという。

つまり、結婚よりも離婚や不倫、美男美女のペアヌードよりハエの交尾を見に行ってしまいがちなのだ。

もちろんそれを見て「生命の神秘だわ」となどと感動するわけではなく、バッチリ不愉快になっていると思われる。

しかしネット上には、親切にも見出しの時点で「不愉快ニュースですよ」と言ってくれているリンクをわざわざクリックし「不愉快だ!」と怒っている人が多いのも事実である。


不安になっている時、不安を解消するためにネットを見る、というのは「寒気がするから全裸になってクーラーを入れる」ぐらいの悪手であり、安心したいならネットではなく専門家に問い合わせをするのが一番なのだ。


つまり「精神的に不安定な時はネットを見ない」のが一番なのだが、ひきこもりにとってネットというのは切っても切り離せないものであり、すでに右手とスマホが融合してしまっている者も多い。

特に、ひきこもりとして生活している人間は、ネットを介して仕事をしている者がほとんどだと思うので、ネットから離れたくても離れられない場合が多い。

実際私も24時間のうち寝ている時間以外はネットに繋がっており、その内68時間はツイッターの情報に触れている。

ツイッターはやらなくて良いのではないかと思うかもしれないがそれは「息をするな」と言っているようなものだ。


しかし「自分で見るニュースを選んでいる」ということは、嫌な気分になるニュースを避けることだってできるはずなのだ。

よってネットを見る時は、漫然と刺激的な見出しが目に入ったらクリックするというような、蝶々が飛んでいたら追いかける、みたいな姿勢で見ない方が良い。


クリックする前に「自ら犬のクソを踏みに行くマヌケになっていないか」と己に問い続けることが大事である。


そして今回も肛門日光浴の話をしないままに終わってしまった。

何らかの組織の抵抗はこちらが思った以上に激しいが、こちらも一歩も退くつもりはないので、これからも応援いただければと思う。


皆に肛門日光浴の情報を伝えるその日まで……。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は7月16日(金)です。
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