第5回
文字数 2,473文字
新型コロナウイルスの影響で、
今「家から出ない」ことが何より尊ばれている。
つまり、時代が突然「ひきこもり」に追いついたとも言えるのでは?
ソーシャルディスタンシングを常に実践、
かつ#Stay Homeでこそ輝く彼らにこそ学ぶべき。
脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする
困難な時代のサバイブ術!
コロナの影響による外出自粛で、仕事も娯楽も家から出ずに完結させるのが主流になり、各企業があまり乗り気でなかったリモートワークも「やれば出来るじゃねえか」ということが判明した。
もちろん今後は「デキるけどやらない」という逆松岡修造みたいな会社方針になるかもしれないが、この仕事も余暇も家から出ないという「ひきこもり」がライフスタイルの1つとして定着していく可能性は高い。
外や社会が苦手なひきこもり体質の人間にとっては、明治維新以来の日本の夜明けという感じがするが、もちろん「ひきこもり」にもデメリットはある。
まずライフスタイルとしての「ひきこもり」を続けていくうちに、社会問題視されている方の「ひきこもり」にスライド走行してしまう危険性がある。
問題視されている方の「ひきこもり」とは、仕事や学校に行っていないのはもちろん、家の事さえせず、当然外部との繋がりは皆無で家族とも会話なし、家族が注意しても聞かないし、最悪暴れるため放置するしかなく、第三者に相談するという発想すらできず、ひたすら、家に「ひきこもり」がいることを近所に隠しているという状態だ。
もはや問題じゃないところを見つけるのが難しい逆間違い探し状態だが、この「ひきこもり」の何が一番問題かと聞かれたら、まず働いていないことによる経済的問題を挙げる人が多いのではないだろうか。
よって家で仕事をしている有職ひきこもりは、このようなひきこもりになる恐れはないような気がする。
しかし「他人との接触が少ない」ところは同じであり、何より「外にあまり出ない」ところが共通している。
仕事をしているのだから他人や外部との接触がないわけではない、と思うかもしれないが、おそらく電話やメールでのやり取りが主で、対面で人に会うという機会はかなり少ないだろう。
それの何が問題かというと、対面で人に会わないことにより「ビジュアルに気を遣う必要がなくなってしまう」のである。
他人の目というのは煩わしいものだが、人の見た目や言動を「人間」に留めるストッパーになっていることは否めない。
これがあるから、実はゴリラだという人も、会社へ行くときは一応、洗濯した服を着るなど人間のコスプレをするのである。
そうしなければ、社会では「あいつゴリラじゃね?」と悪目立ちしてしまい、社会生活に支障を来す。
そもそも服だって、人が見ているから着ると言っても過言ではない。だから誰もいないオフィスでつい全裸になってしまったりするのである。
特別着飾る必要はないが「最低限の身だしなみ」というのは、社会で生きるための必須条件と言えるだろう。
だがひきこもりになることで、それが必須ではなくなってしまうのである。
別に家でどんな格好しようが構わないではないか、と思うかもしれない。
人が見ていないんだから、服も適当で良いし、すっぴんはもちろん、女で江田島平八の如きヒゲが生えてても関係ない思うというのは、人に会わないせいでファッションや化粧、美容に対する「関心」がなくなっているということである。
この物事に対する関心がなくなる、つまり「どうでもよい」というマインドは、ひきこもりどころか孤独死まで引き起こす諸悪の根源なのだ。
人に会わないから見た目はどうでもいい、を続けていくうちに、外に着ていけるような服がなくなり、本体のビジュアルもショッキングになるため、ますます他人とのかかわりがなくなっていく。
そうなると風呂に入る意味も見いだせなくなり、当然健康にも気を遣わず、具合が悪くなって病院に行っても、別の施設を紹介されそうなビジュアルをしているため行く気になれず、何より対面で人と接し慣れていないので、医者に症状を説明できる自信すらない。
そして、誰にも知られないまま帰らぬ人となり、当然外との交流がないのでしばらく発見されないというのが孤独死の黄金パターンである。
他人と会うというのは良くも悪くも「ハリ」なので、ひきこもりは外で働いている人間より「どうでもいい」マインドに陥りやすいのというのは確かなのである。
リモートワークでZOOMなどのビデオ会議を使っている所も多いかと思う。
果たして顔を映す必要はあるのか、音声だけでも成立するのではないか、と思ったが、あれはプレゼンなどがしやすいという理由だけではなく「人の形を維持するモチベーションになる」という意味で実に有用である。
ビデオ会議であることによって、せめて上半身だけは、人に見せられるビジュアルでいようというハリになっているのだ
他人に会わなくて良い、というのは実に楽なことだが、堕落にもつながりやすく、そこから社会的死どころか、リアル死まで招くことになりかねないのだ。
風呂に入っていない奴が「人は見た目じゃないですよ」と言っても誰も聞かない
「ひきこもりは新しいライフスタイルのひとつですよ」と、ろくろをまわすポーズで言いたいなら、ひきこもりでありながら、清潔感があり健康的な姿で言わなければまるで説得力がないのである。
まずは「たとえ家の中でも、外に出ても法に反しない格好を心がける」それが長く健康なひきこもりを続ける鍵である。
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。