武田綾乃×宮田愛萌 創作をめぐる旅

文字数 4,089文字

「響け! ユーフォニアム」シリーズを手掛ける武田綾乃さんの吉川英治文学新人賞受賞作である『愛されなくても別に』が待望の文庫化! 初の小説集『きらきらし』を発表した宮田愛萌さんとの豪華対談が実現しました!

お互いの作品に関する思いや、プロットの立て方など、創作についてのあれこれをたっぷり語っていただきました!


【構成】「小説現代」編集部 【写真】森 清 【初出】「小説現代」2023年8・9月合併号

自分の強みを磨く

──本日はお集まりいただきありがとうございます。お二人は初対面と伺いましたが、宮田さんは武田さんにお会いするのをすごく楽しみにされていたんですよね。


宮田 対談が決まったという連絡をいただいたあと、翌日には持っていない本をすべて買い集めました。買いに行ったときに抜けている巻もあったりして、何店舗か書店を巡りました(笑)。


武田 ありがとうございます! 恐縮です。


──本企画では作家として先輩である武田さんに、日々の創作に対してのお考えや創作論などを伺えれば幸いです。まずは実際にお会いしてみて、お互いの第一印象をお聞かせいただけますでしょうか。


武田 テレビ等で一方的に知っていましたが、今回刊行された『きらきらし』を読んでみて、芯があって感性が繊細な方なんだという印象を持ちました。文章も美しいですし、実際お会いしてみても、イメージとほとんど変わらず、とても素敵でかわいいです。


宮田 ありがとうございます。武田さんの作品は昔から読んでいましたが、ご本人の雰囲気はインタビューを読むぐらいでしか知らなかったので、お会いしてまず、実在することに感動しました。


──武田さんから、宮田さんが刊行された『きらきらし』のご感想をお聞かせいただけますでしょうか。


武田 端正な文章で心の機微を上手に表現される方だというのが第一印象です。一話目に掲載されている「ハピネス」がすごく好きでした。キラキラした原石のようでいて、これからどのような作品を書かれるのかとても楽しみです。特に第三話冒頭のネイルの描写は素敵でしたね。どれくらいの期間で執筆されたのでしょうか。


宮田 嬉しいです。『きらきらし』は早い段階から総ページ数が決まっていたこともあり、一編ごとの分量も分かっていました。そのこともあって、当初は人物設定を作り込んでいたのですが、初稿からはだいぶ削りました。スケジュールとしては一編につき一週間ない程度で、企画が立ち上がってからは、三ヵ月くらいで書き上げたと思います。武田さんが気に入ってくださった「ハピネス」は特に締め切りが早かったです。


武田 とてもハードですね! 私は「ハピネス」だけでこの二倍の量を載せてもいいんじゃないかなと思うくらい好きで、長編や連作短編としても読んでみたい作品でした。

──宮田さんはプロットはしっかり考える方でしょうか。


宮田 プロットの作り方がいまいちわからないんです。武田さんぜひ教えてください(笑)。


武田 新人作家の方はプロットを書いたことがない人も多いから、最初にぶつかる壁ですよね。


宮田 私はまず登場人物のプロフィールを書いて、各場面の一部を順番に書き出したりして、絵コンテみたいな作り方をしました。


武田 面白いですね、映画の作り方に近い気がします。


宮田 大学の映画の授業で、絵コンテの書き方を勉強したことがあったので、それが執筆にも活きました。


武田 私の場合は、作品にもよりますが、まずは物語を構成するブロックごとにキャラクターの性格がわかるセリフと物語の流れを書き出します。但し、純文学的なお話に関しては、プロットを作り込まないようにしています。文章表現や空気感が大事なので、プロットの時点で作り込んでしまうと自由度が落ちて面白くなくなってしまう。エンタメは反対に、物語展開的な面白さが担保されないといけないので、及第点をとれるプロット作成に力を入れるようにしています。完成したところでそのプロットに少しずつ要素を足して執筆していく感じでしょうか。


宮田 なるほど、勉強になります! 収録されている短編の中では、たしか四話目の「好きになること」がプロットそのままに限りなく近かった気がします。執筆に割く時間が確保できず、貼り絵みたいにプロットを繫ぎ合わせて書いていました。


武田 そのパターンで作る作家さんもたくさんいらっしゃいますよ。「好きになること」、面白く読みました。そしてこれはプロットの話から逸れるのですが、全編を通して女の子同士の会話の描写が抜群に上手だなと感じました。


宮田 今までずっと趣味で小説を書いていた時、女の子同士の会話ばかりを書いてきたからかもしれません。


武田 私の場合、プロの作家になって自分の弱みばかりが気になるようになったんです。本格ミステリが書けない、年上の方の心理は難しい、といったように。でも最近は自分の強みを磨くのが一番いいと思っています。普段何気なく書いているものって本人にとっては当たり前なので自分の強みだと気付きにくいんですよね。一読者として、女子同士の会話の面白さは宮田さんの強みだなと感じました。


宮田 ありがとうございます。そのように言っていただき励みになります。

『愛されなくても別に』ができるまで

──文庫化された武田さんの『愛されなくても別に』のお話も伺えればと思いますが、この作品のプロットはどのように作られたのでしょうか。


武田 企画が立ち上がったときは、奨学金をテーマに五話程度の連作短編を考えていました。最初は少し仕掛けじみたエンタメ風の作りをしていたんですが、書いていくうちに純文学っぽいテイストに寄せることになり。青春小説を多く書いてきた私ですが、「親子という呪縛」はデビュー以来ずっと書きたいと思っていたテーマでした。ただ筆力が題材に追いついていないと感じていたのでずっと書けなくて……。二十八歳のときにやっと挑戦する踏ん切りがつき、ようやく書き上げることができました。


──宮田さんは読まれていかがでしたか?


宮田 このお話のリアルさがどこまで理解できたかはわからないのですが、登場する人物の陰鬱な雰囲気や人物間の視線はすごく感じ取れて。私は多分「見る」側にいたのだと思いますが、その視線をどのように受け止めているのか、感じているのかが想像できたのが面白いなと思いました。主要人物二人の関係がはまっているような、歪なような、読んでいて心がザワザワする感じがして、そこがとても好きです。


武田 ありがとうございます。この作品は吉川英治文学新人賞をいただいたのですが、一つ前の作品で賞の候補にしていただいた『その日、朱音は空を飛んだ』が、エンタメに寄せたブラックサスペンスだったので、もう少し正統的な話を書こうと思って書いたのが『愛されなくても別に』でした。


宮田 私は時間を置いてから何度も読む本と、連続で読み返す本がありますが、『愛されなくても別に』は連続で三回くらい読んでしまいました。読後に残るものは重たいのですが、それぐらい引き込まれるものがありました。


──この作品はどのようにして書かれたのでしょうか?


武田 このお話は精神的に参ってた時期だからこそ書けた小説でした。私の場合、作品によって入り込んで書くものと俯瞰でとらえて書くものがあるのですが、この作品はずっと入り込んで書いてましたね。コロナで人に会えない、地元の京都にも帰れない、ということで気分が落ちて、さらに作品に入り込む環境が出来上がってました。


──作品によって執筆スタイルは変わるものなのでしょうか。


武田 部活ものといったエンタメ作品はある程度型が決まっていて、たとえば起承転結の結には必ず大会といったイベントがあるので、そこに向けてお話を展開していくと自然と盛り上がっていきます。『愛されなくても別に』はテーマはあるものの、どのように終えるか考えなければならないので難しかったですね。長編小説は導入よりもラストをしっかり面白くしないと尻すぼみな印象を与えてしまうので、そのあたりのバランスも念頭に置いて書いています。

豪華対談の続きは、好評発売中の「小説現代」2023年8・9月合併号で!
武田綾乃(たけだ・あやの)

1992年京都府生まれ。第8回日本ラブストーリー大賞最終候補作に選ばれた『今日、きみと息をする。』が2013年に出版されデビュー。『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』がテレビアニメ化され話題に。2021年に『愛されなくても別に』で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。その他の著作に、「君と漕ぐ」シリーズ、『その日、朱音は空を飛んだ』『噓つきなふたり』『なんやかんや日記~京都と猫と本のこと~』などがある。

☆☆☆第42回吉川英治文学新人賞受賞作!☆☆☆

『愛されなくても別に』 武田綾乃 著

「幸せ」じゃなくたって、私たちは生きていく。

家族、友人、お金、愛――本当に必要なものは何?

人生の必需品に翻弄される現代に放つ、心ふるわすシスターフッドの傑作。


遊ぶ時間? そんなのない。遊ぶ金? そんなの、もっとない。学費のため、家に月8万円を入れるため、日夜バイトに明け暮れる大学生・宮田陽彩。浪費家の母を抱え、友達もおらず、ただひたすら精神をすり減らす――そんな宮田の日常は、傍若無人な同級生・江永雅と出会ったことで一変する!

祝デビュー10周年! 「響け! ユーフォニアム」シリーズ著者の新たな代表作!

宮田愛萌(みやた・まなも)

1998年東京都生まれ。2023年アイドルグループ卒業時に『きらきらし』で小説デビュー。エッセイの執筆をはじめ、帯文の寄稿や作家との対談、短歌研究員として短歌を詠むなど活躍の幅を広げている。

誰もが、切なくて愛おしい、きらきらした欠片を持っている──大好きな万葉集から想像を膨らませて執筆した5つの物語とそれを元に撮影した万葉の都・奈良への旅。全開の笑顔からドレスをまとう大人びた表情、本人こだわりの袴姿まで、アイドルとして最後の姿を収めた一冊。


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