「わたしたちの三十年」山内マリコ

文字数 1,040文字

(*小説宝石2022年6月号掲載)
2022/05/25 15:01


 座のカフェで打ち合わせがあり、少し早く着いて手持ち無沙汰にしていたら、となりの席に座った女性二人組の会話が、聞くともなしに耳に入ってきた。彼女たちはまだ知り合って間もない様子だった。遠慮がちで、言葉づかいも定まらず、敬語とタメ口がまじる。もしかしたらまだお互いの年齢を明かしていないのかもしれない。若いけど、三十代の落ち着きが見て取れる。わたしと同年代だ。


 二人はあのあと、仲良くなれたのかなぁ。なんだか、運命的な場に居合わせたみたいにドキドキした。あの二人、仲良くなれてたらいいなぁ。


 最後にああいう出会いがあったのはいつだっけ? わたしは友達が少ないから、それぞれの出会いの場面をけっこうちゃんと憶えている。それと同じくらい、仲良くなりそびれた子のことも憶えている。友達だったけど、親友と呼べるほどではなかった子。一時期は親友だった人とも、ここ数年のあいだに距離ができたりもした。作家になったり、結婚したり、自分のことにかまけて忙しくしているうちに、そうなってしまった。


 ともかくわたしは二〇一八年二月に銀座のカフェで、友達になりかけている二人の女性を見たときから、このことを小説に書きたいと思うようになった。構成はその場で決まり、メモに書き留めた。はじまりはAちゃんとBちゃんの物語だ。その次は、BちゃんとCちゃんの話が展開する。次はCちゃんとDちゃん……という具合に、小学生から中学生、高校生、大学生、二十代、三十代と追いかけて、その年代ごとの女子の友情を描きたい。友達は流動的だし、その蜜月は恋と同じで短いものだし、人は歳をとるから。いろんな登場人物が、バトンリレーするように友情でつながっていく、ロンド形式の連作短編にしようと思った。


 書きあぐねているあいだに元号が変わった。自分も四十代になった。そんなわけでこれは、昭和後期に生まれた女性たちの、平成三十年史でもある。


2022/05/25 15:26
2022/05/25 15:26

【あらすじ】

十歳~四十歳の女同士の友情の濃密さ、繊細さ、そして女子の生き様を描き出した八編の連作短編集。それぞれの年代の女子の友情がロンド形式でつながっていく、"わたしたちの平成三十年史"。著者デビュー十周年の到達点!


【PROFILE】

やまうち・まりこ

1980年、富山県生まれ。2012年『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。『アズミ・ハルコは行方不明』『あのこは貴族』『The Young Women’sHandbook~女の子、どう生きる?~』など著書多数。

2022/05/25 15:28

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色