「食べ物の描写がおいしそうな小説」を書く理由

文字数 944文字

 作家になる以前の仕事として、一時期、グルメライターをしていました。
 そして、作家になったあとも「食」をテーマにした作品をよく書いています。
 京都を舞台とした『初恋料理教室』ではおばんざいを描き、本作『ショコラティエ』ではチョコレートを描きました。
 食に関するエッセイを頼まれることも多く、レシピ付きのエッセイ集『子どもをキッチンに入れよう!』も発売中です。

 私は幼いころから味覚が鋭くて、それが仕事につながったのだから、いいことのようにも思えるけれど、実は、子供時代には「苦しみの元」だったのです。

 味つけが濃すぎるものや農薬の使われている野菜や化学調味料などに過剰に反応して、まずいと感じて食べることができないのですが、それを訴えても、親や教師など大人たちには「わがまま」だと思われてしまう……。
 つらさをわかってもらえず、与えられるものを食べるしかなく、暗黒の日々でした。

 自分の「繊細な舌」は、おそらく、先天的なものなのでしょう。
 給食が苦手で「おなじ釜の飯を食う仲間」になれず、異質さを痛感したことによる子供時代の「孤独感」が、その後の人格形成にも大きな影響を与えたのではないかという気がします。

 天の采配により、こういうふうに生まれついてしまった。
 それが「祝福」なのか、「呪い」なのかは、わからない。

 本作『ショコラティエ』は「才能」と「情熱」についての物語です。

 主人公たちが過ごす「悩み多き青春時代」には、かつての自分の経験が活かされており、そこに、大人になった自分からの「役に立ちそうなアドバイス」も込めました。

 孤独だったから、私は小説を書きはじめたのだと思います。
 自分の感覚が伝わる相手がどこかにいると信じて、遠吠えをするような気持ちで、いまも文章を綴っているのです。



藤野恵美(ふじの・めぐみ)
1978年、大阪府堺市生まれ。大阪芸術大学卒業。2004年『ねこまた妖怪伝』で第2回ジュニア冒険小説大賞を受賞しデビュー。著書に『ハルさん』『おなじ世界のどこかで』『しあわせなハリネズミ』『涙をなくした君に』『きみの傷跡』など多数。

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