川中島の戦い完全ガイド④ そもそも川中島の戦いとはPART2

文字数 2,123文字

日本の歴史に残る有名な合戦を活写&深堀りして大好評の矢野隆さんの「戦百景」シリーズ

第4弾は、最強武将対決の戦い「川中島の戦い」を描いた『戦百景 川中島の戦い』

今回は「「川中島の戦い」という名称は知っているけど、誰と誰が戦ったんだっけ?」「そもそもどんな戦だったんだっけ?」という方に、「川中島の戦い」の基本を知っていただくための「そもそも川中島の戦いって⁉」PART2です!


「戦百景」シリーズとは…

第1弾『戦百景 長篠の戦い』は「細谷正充賞」を受賞!

第2弾『戦百景 桶狭間の戦い』

第3弾『関ヶ原の戦い』

と、有名な合戦を深堀りしてリアルタイムで描く、矢野隆さんの人気シリーズ!


これから読む方にも、読んだ方にもおすすめの、物語をより楽しむための作品ガイドです!

《そもそもの「川中島の戦い」3》

「啄木鳥戦法」を採用した武田軍が窮地に陥ったところまで 戦百景 川中島の戦い完全ガイド➂で述べた。


上杉軍13000が武田本隊8000に襲いかかる。その際「車懸りの陣」という波状攻撃戦法を用い、武田本陣に肉薄した謙信が馬上から信玄に斬りかかって、信玄はそれを軍配で受けたという伝説が生まれた。

残念ながら、軍記物など後の創作であろうとの説が強いのだが。ただ、両軍合わせて33000の兵が激突したこの合戦において、戦死者7000というその割合が飛びぬけて多かったことを考えると、大将同士が接近する戦いとなったことは事実のように思える。


さて、本書『戦百景 川中島』の一つのテーマにもなっている「真の勝者」について。武田方は武田信繁(信玄の弟)、山本菅助(軍師)、諸角虎定(侍大将)らの有力な武将を失っている。

戦死者は元の兵数に比例するように武田4000人、上杉3000人。だがその後の北信濃の支配者は武田になった。

とすれば、戦力のダメージでは上杉が、戦略的実利では武田が勝利したと言えるのではなかろうか。

《そもそもの「川中島の戦い」4》

合戦の勝者について上記の「3」の最後で触れた。

今回はその「勝者」についてもっと掘り下げてみたい。


川中島の第一次合戦は天文22年(1553年)に起こり、第五次の永禄7年(1564年)まで足掛け12年も戦国最強武将たる武田信玄と上杉謙信が睨み合っていたことになる。


さてそのころ、後に天下統一を成し遂げようとする織田信長は何をしていたのだろうか。

第一次合戦の年に信長は舅の斎藤道三と聖徳寺で会見している。

第四次の前年・永禄3年(1560年)に桶狭間の合戦で今川義元に勝利。第五次の前年・永禄6年(1563年)には婚姻政策によって徳川家康との同盟関係を強化している。


こうして見ると、川中島を挟んで信玄と謙信がしのぎを削っている隙に、信長が天下取りの布石を打っていたことがわかる。

後に、織田が援軍に加わった徳川軍が三方ヶ原で信玄に惨敗し、織田軍の柴田勝家が手取川で謙信に大敗したことを考えると、川中島の戦いの「真の勝者」は織田信長だったと言えるのかもしれない。


歴史に「もし」は禁物だが、川中島で信玄と謙信の間で早々に決着がついていれば、その勝者の矛先はもっと早い段階で信長へと向かい、決戦を余儀なくされたのだろうから。

あらすじ

父・信虎を追放して甲斐国主となった武田晴信(のちの信玄)は信濃への侵攻を繰り返す。晴信は次々に信濃の国人衆を従えていくが、北信濃の村上義清が立ちはだかる。だが武田軍の圧力に抗しきれず、義清は越後の実質的支配者・長尾景虎(のちの上杉謙信)を頼る。景虎は義清ら国人の要請に応え北信濃に進出。武田軍と対決する。天文22年(1553年)の第一次川中島の戦いである。その後両者は二度対峙し、また景虎は関東管領職に就き上杉政虎と改名するが、二人が直接干戈を交えることはなかった。信州進出でほぼ無敗を誇る晴信と、戦神・毘沙門天を名乗る政虎。戦国最強の二人の勇将は互いに雌雄を決することを欲するようになる。そして永禄4年(1561年)、ついに決戦の時が訪れる。晴信を屠ることを決意した政虎が川中島の南部に位置する妻女山に13000の兵で布陣し、晴信はその意図を察したように武田の橋頭保・海津城に全軍20000を集めた。10日ほどの対陣ののち、濃霧が出る前夜に武田軍は二手に分かれて出陣。それを気取った上杉軍も密かに妻女山を下るのだった……。

矢野隆(やの・たかし)

1976年福岡県生まれ。2008年『蛇衆』で第21回小説すばる新人賞を受賞。その後、『無頼無頼!』『兇』『勝負!』など、ニューウェーブ時代小説と呼ばれる作品を手がける。また、『戦国BASARA3 伊達政宗の章』『NARUTO-ナルト‐シカマル新伝』といった、ゲームやコミックのノベライズ作品も執筆して注目される。また2021年から始まった「戦百景」シリーズ(本書を含む)は、第4回細谷正充賞を受賞するなど高い評価を得ている。他の著書に『清正を破った男』『生きる故』『我が名は秀秋』『戦始末』『鬼神』『山よ奔れ』『大ぼら吹きの城』『朝嵐』『至誠の残滓』『源匣記 獲生伝』『とんちき 耕書堂青春譜』『さみだれ』『戦神の裔』『琉球建国記』などがある。

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