『QED 源氏の神霊』高田崇史さんコメント

文字数 1,391文字

大人気シリーズQEDの最新作『QED 源氏の神霊』が文庫化です!

著者・高田崇史さんより、文庫化によせてコメントをいただきました。

『QED 源氏の神霊』


みなさんは当然、わが国の国歌『君が代』を御存知でしょう。

しかし、二番の歌詞は? と訊かれて、きちんと答えられる方は少ないのではないかと思います。

実は『君が代』には、三番、四番まであるという説があります。

ただ、三、四番は変遷を繰り返しているようで確定していません。

しかし二番の歌詞は、確定しています。それは、


君が代は 千尋(ちひろ)の底の さゞれ石の

鵜のいる磯と あらはるゝまで


というものです。


そしてこの歌は、あの「鵺退治」で有名な源氏の武将、源頼政が詠んだものとされています。彼は立派な歌人でもあったわけです。

その頼政は、従三位という官位まで得て平穏無事に生涯を送れるはずだったにもかかわらず、77歳にして何もかも投げ捨てて一族共々挙兵し、平家との宇治橋での戦いに敗れ、平等院で切腹して果てます。

しかし、最初から勝ち目の薄かった戦いなのにもかかわらず、頼政の元に大勢の人々が――武人を引退していた町人までが集い、誰もが討ち死にするまで平家に抵抗しました。

一体「何」が彼らをそこまで駆り立てたのでしょうか。

その本当の理由は何だったのでしょう?



もう一人の源氏の武将は「粗野で乱暴な田舎者」と言われた木曾義仲です。

しかし松尾芭蕉は、自分の死後「骸(から)は木曾塚に送るべし」と遺言し、現在も義仲の隣に眠っています。

また、芥川龍之介も「木曾義仲論」において、義仲を悪く言う人間がいるが、それは「失笑」――呆れて吹き出してしまうことだ、と彼を非常に高く買っています。

義仲の周囲では、数多くの忠臣たちに混じって、巴御前を始めとする女性たちまでが薙刀や剣を持って立ち上がりました。

彼ら彼女たちにそこまでさせるほどの魅力を持っていた人物が、いつの間にか、単なる「田舎者」「乱暴者」と貶められるようになりました。

しかし、そんな人物の元に、あれほど優秀で忠実な人々が集うはずもありません。

そんな義仲に関して、歴史の闇に埋もれてしまっている真実とは、一体何だったのでしょうか?


かの源頼朝でさえ、最初から最後まで北条氏の掌の上で踊らされていました。ですから、義経を始めとする頼朝以降の人々も当然、誰もが同じです。

そうなるとあの時代、純粋に「源氏」として「平家」に対峙したのは「源頼政」と「木曾義仲」の二人だけだったことになります。


今回は、そんな「生粋の源氏の人々」への供養と思って、この本を著してみました。

お目通しいただければ光栄です。 

高田崇史(たかだ・たかふみ)

昭和33年東京都生まれ。明治薬科大学卒業。『QED 百人一首の呪』で、第9回メフィスト賞を受賞し、デビュー。歴史ミステリを精力的に書きつづけている。近著は『源平の怨霊 小余綾(こゆるぎ)俊輔の最終講義』『QED 憂曇華の時』『古事記異聞 京の怨霊、元出雲』など。

『QED 源氏の神霊』


中村獅童さん推薦!


平安時代末期、源頼政は宮中を恐怖に陥れた妖怪・鵺を退治。武芸にも和歌にも秀で、晩年には平清盛の下で従三位に叙される。ところが二年後、恩ある清盛ら平家を敵に挙兵する。なぜ頼政が老齢を押して戦いに臨まなければならなかったのか。頼政ゆかりの地で起きた連続殺人を軸に桑原崇が源平合戦を解き明かす。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色