「推しって一体何?」へのアンサー
文字数 1,573文字
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『推し、燃ゆ』宇佐見りん
この記事の文字数:1,243字
読むのにかかる時間:約2分29秒
■POINT
・『推し、燃ゆ』とは:ひとりの女子高生と「推し」の物語
・「推し」って一体何なのか、そのひとつの回答が本作に
・生きづらさの中ですがるもの、それが「推し」!
■ひとりの女子高生と「推し」の物語
「推しが炎上した。ファンを殴ったらしい」
物語の冒頭。“推し”と言える存在がいる人は、このセンテンスだけで喉の奥がヒュッと一瞬詰まるのではないか。それほど殺傷能力がある。
第164回芥川賞を21歳の若さで受賞し、話題となった宇佐見りん氏による『推し、燃ゆ』。高校生のあかりの唯一の生きがいは、アイドルグループ「まざま組」のメンバー・上野真幸を推すこと。グッズを買い、インスタライブをチェックし、彼の発言は全て書き留め、分析し、彼のメンバーカラーで身を固めてライブに行く。学生生活も家族関係もうまくいかない彼女にとって、推しを推すことがすべてなのに、推しの炎上によって彼女の生活は次第に崩れ始める。
■『推し』とは一体何なのか
近年、よく耳にするようになった「推し」というキーワード。「推す」と一言で言ってもそのスタイルはさまざまで、推すことで何を得たいかも十人十色。あかりを通すことでその世界を鮮明に捉えることができる。
物語の序盤、あかりは真幸のことを「推し」とか「推しくん」と呼んでいることもあり、あかりと同じ推し方をしている人にとってはなかなか刺激が強いかもしれない。
さらに、「推しとは一体何なのか」ということにもひとつの回答が導き出されており、推しがいながらにして満身創痍な人にとっては特効薬となる可能性もある。劇薬になる場合もあるけれど。
そして推す生活で欠かせないのがSNSだ。例えば、SNSのトレンドに推しの名前があったとしたら、0.5秒、タップするのをためらう。なぜトレンドにいるのか、ハッピーな告知があったのかそれとも何か“やらかして”しまったのか、ということが瞬時に頭をよぎる(結局我慢できずにタップしてしまうのだが)。
あかりはSNSから推しの情報を得、満たされることがありながらも、炎上するとSNSにあふれる言葉に自身の心も焼かれていく。
■生きづらさの中ですがるもの
また物語の中で、大きな軸になっているのがあかりは「保健室で病院の受信を勧められ、ふたつほど診断名がついた」こと。みんなが難なくこなせることが自分にはままならない、というあかりは、学校でもアルバイト先で、そして家族の中でもうまく立ち回れない。それもあって、ますますあかりは推しに傾倒していく。
推し文化とSNS文化の親和性を見事に描いており、令和初期としての文化を残す上でもとても重要になってくるのではないだろうか。
推すことは他人事ではない。何も推しとなるのは、アイドルやタレントばかりではない。もしかしたら明日、突然、自分以外の「何か」「誰か」に感情の導火線を握られて、コントロールできなくなるかもしれないのだから。
果たして、炎上した「推し」が選択した道とは。その選択を受けてあかりはひとつのゴールへとたどり着く。