ゾフィー上田の「自分では出会わない本について語る会」第四回

文字数 2,754文字

お笑いファンに絶大な支持を得るコント師・ゾフィー上田航平さんは、読書家としても知られています。

でも、最近ふだんの読書だけでは物足りない様子。。。


そこで当コーナーでは、編集部からご自身では絶対に買わなそうな本をチョイスして、上田さんに読んで語ってもらいます!

〇突然大好きなハリウッドスターに出会った際に最適の一冊!

 「昔好きだったアイドルは?」という話になるといつもすごく困る。SPEEDもモーニング娘。も大好きでたくさん聴いたり歌ったりしたけれど、ライブに行ったりグッズを買ったり部屋にポスターを貼ったりしたことがない。はたしてそれは本当に「大」好きなのだろうか?

 大学の後輩にポルノグラフィティが大好きな女の子がいた。その子は実家に帰っている時にボーカルの岡野昭仁さんが結婚したことを知りショックを受け、東京の一人暮らしの部屋にポルノのポスターを貼りまくっていたのでもう家に入れないと号泣していた。

 そこまでじゃないと「ファン」という言葉は気軽に使えないのではないか? いつも気が引ける。そう思うと誰のファンでもなかったような気もする。でもそれはそれで「結局僕は自分が好きなんです(笑)僕は僕のファンクラブ会員第1号ってわけなんです(笑)」なんて言ってるようですごく嫌だ。悩ましい。

 今回紹介するのはそんな私が決して出会わなかったであろう本世界が広がる、推し活英語』である。



 この本は「国境を超えて推し活を楽しみたい」という人たちの本である。ファンの輪はもはやとってもグローバル。そんなご時世を反映して推しを愛する皆さんのために英語で言いたいフレーズを集めたのがこの本である。

 ちなみに「推し」は英語で「fave」、「尊い」は「precious」、「沼」は「obsession」、「召される」は「ascend to heaven」らしい。

 こうして並べると日本のファンの人たちの日本語語彙力に改めて驚く。若者言葉として「チョベリバ」だの「ぴえん」だの時代時代に合わせて新しい言葉が生まれ落ちるが、ファンから生まれ育った言葉はまたちょっとフェーズが違う。うちのおばあちゃんに「この人はBTSの沼にハマって召されたんだよ」と説明したらきっと目を閉じてそっと手を合わせる。推し言葉は「それってどういう意味?」ではなくて「比喩を超えて別の意味で成立するほどに熟している」のである。日本語はとことん自由だ。もはや「古池や蛙飛び込む水の音」すら古参や新規のファンを意味しているように聞こえる。松尾芭蕉の推し俳句。



 また、推しに会った時のフレーズもたくさん紹介されている。「また日本に来てください!」は「Please come to Japan again!」、「あなたに夢中です」は「I’m crazy about you.」、「これは夢ですか?」は「Am I dreaming?」。このフレーズを一生懸命覚えて使おうとしている日本人がもはや尊い。

 そして今ふと思ったが、もしも自分が大好きなハリウッド映画の俳優さんと仕事で喋る機会があったら、このフレーズはめちゃくちゃ使えるではないか。そうか、アイドルでばかり考えていたが、自分はマーベルの映画がとっても大好きなので、もしも万が一出演者と対談するようなことがあったとしたら「自分もどうにか英語でこの熱い想いを伝えたい」と心底思うに違いない!この本との距離が一気にググっと近付いた!「(アベンジャーズのテーマは)神曲なので鬼リピしてます!」「(エンドゲームは)胸熱展開でしたね!」「(スパイダーマンは)製作陣の愛しか感じません!」「(ロバートダウニージュニアが)イケボで心臓もたん!」。ご本人に会うことは叶わずとも海外のマーベルファンと交流することもあるかも知れないと考えたらあれもこれも必要なフレーズに感じてくる。

 そんなこんなで急に思い出した。そうだ、ひとりいたぞ。私の人生唯一のhardcore fan。彼女の名前はキャメロン・ディアス。



 中学生の私は、映画「メリーに首ったけ!」を観てからキャメロンに首ったけになり「メリーに首ったけ!」を何十回と映画館で見て「You’re an angel!!」とずっとうっとりしていた。This is a 100% real crush.キャメロンは私にとってガチ恋だった。それから雑誌の切り抜きを集めたり、キャメロンに関する情報を片っ端から集めたりしてた。するとなぜかキャメロンが下北沢で何度も目撃されたという情報を発見して「キャメロンって下北住んでるんだ!」と当時藤沢に住んでいた私は自分が小田急線1本でキャメロンの住む街に行けることに興奮していたのである。

 I want to breath the same air as Cameron.キャメロンの街下北にいつか行きたい。高校生になると同級生に「ハリウッドセレブが下北住むわけねえだろ!」とがっつり否定された。しかし私は信じて疑わなかった。キャメロンは庶民派だから、ずっと住んでいたことはないにしても数ヶ月は下北の王将あたりに住んでいた時期があったはずだ。絶対天津飯だ。塩ダレだ。



 そんなキャメロンも2014年に女優業を引退してしまった。奇しくもゾフィー結成の年である。現在キャメロンは旦那さんと娘さんと幸せに暮らしている様子がインスタにアップされている。キャメロン、あなたがもしもこのエッセイを読んでいたら心から伝えたい。「Your existence is more than enough for me.(生きてるだけでファンサです)」

『世界が広がる推し活英語』

監修・劇団雌猫

定価 1500円(税込)

学研プラス

上田航平(ウエダコウヘイ)
1984年生まれ。神奈川県出身。慶應大法学部卒。2014年にサイトウナオキとゾフィーを結成、2017年、2019年「キングオブコント」ファイナリストとなった。また、ネタ作り担当として、「東京03の好きにさせるかッ!」(NHKラジオ第1)でコント台本を手がけるなど、コンビ内外で幅広く活動している。趣味は読書とサウナ。なお、祖父は神奈川県を中心に展開する書店チェーン店「有隣堂」の副社長を勤めたこともある。

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