第42回

文字数 2,716文字

流石にちょっと寒すぎる。厳冬にこそひきこもり。

ガンガン部屋を熱して乗り過ごしましょう、コロナ・ウインター。


どんな季節も自室に籠城、

インターネットが私たちの庭なんです。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

ここ数回ひきこもりのことを「ルーマー」と称したり、家から出ないことが、どれだけ現代にあった合理的でクールな生き方か示してきたつもりである。

すでに「ひきこもり」という「ライフスタイル」および、ひきこもりという「生き方」を実践する「私」という存在に、憧れる若人も増えてきているのではないだろうか。


それは別に良い、憧れというのは向上心である。

子どものころ、漫画やアニメのキャラクターに憧れたことにより、将来プロ野球選手や恐竜、新幹線になる人間も少なくはないのだ。


しかし、憧れの人が「自分らしく生きるためのヒントが見つかるグループを作った」と言い出したらちょっと注意してほしい。


私がひきこもりを、エリカ様が違法薬物を「ライフスタイル」と言い張っているように、昔に比べると様々な生き方が「あり」になりつつある。


ひと昔前であれば、女は結婚して子供を産み育てる、その道から外れれば餓死か山姥になるしかないと言われていたが、最近は「あえて自ら山姥になる」という生き方もなし寄りのありにまでなりつつある。


つまり多様化によって選択肢が増えた、ということだが、道が増えたということは「迷いやすくなった」ということでもある。

昔は迷うほどの選択肢がなかったのだから、「迷える」ということ自体が大きな権利なのだが、自分で自由に選べと言われたら逆に困ってしまうタイプだっているのだ。


「女」とか「妻」「母」「竜馬の妻とその夫と愛人」など周囲に属性をカテゴライズされてしまうという風潮は今も根強いが、徐々に勝手に他人を枠にハメるのは良くないという流れになってきている。

しかし、他人が勝手に自分に役を与えなくなるということは、自分で何者かにならなければいけないということだ。

別に何者かになる必要などなく「名状し難いナニカ」として一生を終えても問題はないはずなのだが、この「何者かにならなければいけない」圧が現在強くなっているのだ。


ここで、プロ野球選手や、海賊王、新幹線など、なりたいものがはっきりしているなら良いが、それがないと「何をやっているのかはわからないが、金を持っており、キラキラしていて、言うことがイチイチカッコいい人」に憧れてしまう場合がある。

何をやっているのかわからないのに金を持っていてキラキラしている人が悪いわけではない。自分だって出来ればそうなりたい。

しかし大体そういう人は「実家がごん太」という、何のストーリー性もない背景があったりするのだ。


問題はそういった「実体不明のものに憧れる人間」から、搾取することが目的の人間もいるということだ。


「海賊王に俺はなる」という目的がはっきりしている人に、「とりあえず原付の免許を取ろう」などとと適当なことを言ったら、「こいつ俺のことを謀ろうとしているな」とすぐバレてしまう。

しかし、何に憧れて、何になろうとしているかさえわかっていない人間相手なら、とりあえずポジティブでキラキラしたワードを連打し、最後に「未来への投資は惜しんではいけない、リスクを取れない人間はそこで終わっている」でキメれば、消費者金融で年利18%というリスクを取らせて高額な商材を買わせることも難しくはない。


ゴールドラッシュの時、一番儲けたのは金を掘る道具を売る会社だったというように、「何をやっているのかよくわからないが金を持っていてキラキラしている人」というのは、「そういう人間になりたい人」から金を巻き上げているから金持ちという場合がある。


全てのサロンやセミナーがそうではなく、有益なコミュニティも多いとは思うが、最初から搾取目的の場もあるのは事実なので注意してほしい。


そういう集まりには「デメリットを説明しない」という特徴がある。

例えばフリーランスは、毎朝起きて会社に行かなくて良いというメリットがあるが、その代わり社会補償は無職同然だったりと、どんな生き方にもメリットとデメリットがあるし、エリカ様が提唱していたライフスタイルにだって「逮捕」というリスクがある。


デメリットのない生き方などほぼ存在しないが、デメリットを口にすると思い留まってしまい、せっかく財布から出かけた楽天のクレカが引っ込んでしまうので、金を出させることが目的の人間はひたすらポジティブなことしか言わない。


何かに憧れることは大事であり、誰かに教えを乞うことも非常に大切である。

ファッション誌を完コピしてくる奴より、「俺の考えた最強の大学デビューコーデ」で校門をくぐった奴の方が圧倒的に暗い青春を送りがちだ。


しかし、参考にしたのが今はなき俺たちの「KERA」だったりすると、それはそれで、想定外の青春を送ることになったりもする。


つまり、教えを乞う相手を間違えないようにしなければならず、良いことしか言わない人間には気をつけた方が良いということだ。


ちなみにひきこもりのメリットは、何度も言っているが、人間関係の煩わしさがないこと、デメリットは、他人や外部との繋がりが希薄になり、孤独死率が異常に上昇することである。


人生の選択というのは、ひたすら良さそうな方を選ぶことではなく、メリットとデメリットを理解した上でメリットの方が大きいと感じられる方を選ぶ作業である。

時には、どっちもデメリットしかないがよりデメリットが少ない方を選ぶという、クソの中からクソを選ぶ場合もよくある。


ひきこもりのメリットとデメリットを理解した上で、こちら側に来たいという人は歓迎するし、私がオンラインサロンを開いた暁にはぜひ入会してほしい。


孤独死というリスクを取れない人間に、ひきこもりとしての未来はない。

★次回更新は2月19日(金)です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

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