12歳の私が見ている

文字数 1,035文字

 私の最大のライバルは、12歳の時の「私」だ。
 12歳は、子どもから大人への階段を上がる直前の時期で、「正論こそが正義」と信じて疑わない純粋かつ無敵感に満ちあふれた(私のような)困った子どもが、時々出現しがちである。
 社会の矛盾と不条理を最初に知る年頃であり、それを「大人の事情」として飲み込んでいくのが成長だ、と知りながら、「小賢しい子ども」は、抗おうとする。
 私自身も、その典型であった。
 6年生の学級代表が集まって議論する児童会で、夏休みの過ごし方を考える時、児童会長だった私は、教師が定めた「午前11時までは、外出せず自宅で勉強」という規定に異を唱えた。
「勉強をいつするのかは、各人それぞれで最適の時が違う。そんなルールは、授業で習った憲法の『行動の自由』の侵害だ」と主張し、全会一致で、「削除」と採決する。
 翌日、職員室に呼ばれて児童会担当の教諭から、「前日の決定は認めない」と通達される。「先生は、憲法違反を押しつけるんですか」と返すと、「それは、大人になってからやってくれ」と反論される。そこで私は「先生の提案を受け容れる代わりに、別の要求を呑んで欲しい」と交渉した。そして、それまで学校で禁止されていたトランプ遊びを雨天だけ行っていいという権利を勝ち取った。
 今から考えると、こんな子どもはたまらん! と思うのだが、12歳の私は、そこに「正義」があると信じていた。
 ませた子どもの蛮行だと笑うのはたやすい。しかし、「勝手に大人の理屈で、不条理に立ち向かわず、異を唱えないで恥ずかしくないのか」と主張する「12歳の私」を侮ってはならないと思っている。彼に叱られないためにファイティングポーズを崩さない。



真山仁(まやま・じん)
1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収を巡る熱き人間ドラマを描いた小説『ハゲタカ』でデビュー。他の著書に『売国』『バラ色の未来』『オペレーションZ』『ロッキード』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『プレス 素晴らしきニッポンの肖像』などがある。前作『当確師』は’20年にテレビドラマ化された。

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