5冊目/松原秀行の『パスワードは、ひ・み・つ 風浜電子探偵団事件ノート1』

文字数 1,476文字

独自WEBメディアやYouTube、はては地上波ゴールデンまでーー。

幅広く活躍の場を広げ続ける東大発のクイズ集団「QuizKnock」。


その人気ライターである河村・拓哉さんが初の書評連載 『河村・拓哉の推し・文芸』!


第5冊目は、松原秀行さんの『パスワードは、ひ・み・つ new(改訂版)-風浜電子探偵団事件ノート1-』(青い鳥文庫)について語っていただきました。

読んだことがあるのは初期版だったので今回新しく読みました。


珍しく読んでいた児童書シリーズでした。僕の過去に関係が深い作品であります。関係が深いというのは、僕が実際にこういうことをしていた、という意味です。


小海マコトはミステリ大好き小学5年生。ある日ゲットしたパソコンを通じて、ネット上で活動する「電子探偵団」の一員となります。パズルや暗号、身の回りで体験した謎を持ち寄って解き合う活動をしていた電子探偵団ですが、ある時、ある謎に遭遇して……。


児童書なので明瞭快活、血も流れないので安心して読み進められます。


ネチケット(ネット上でのエチケット)という死語がまだ生きていた時代、僕もマコトと同じくらいの子どもでした。そんな僕はネット上をふらついた末たどりついた掲示板で、パズルや謎解き(謎解きという単語がまだ使われていなかった時代です)を出し合っていたのです。


「パスワード」シリーズに触れた時の衝撃はすごいものでした。僕は森博嗣作品を読んでいるような背伸びをしたガキで児童書をスルーしていたのですが、ある日掲示板でB君がこのシリーズを好きと書いているのを見たのです。試しに買ってみてびっくり、我々がやっていることそのままではないですか! B君はそういう世界に憧れていたのでした。だから彼は本気でした。僕はどうにか追いつこうとしました。でも結局勝てずに終わってしまいました。


「パスワード」を読むと当時のことを思い出します。未だに、追いつけていない感触があります。


僕の出題センスはこの時代に練習したものです。友人の良問に嫉妬し、大人に無謀に立ち向かい(寛大に接してくださりありがとうございます)、工夫していきました。文章のコミュニケーションは丁寧に取ったほうがいいことを学んだのも、問題が面白くないと参加してもらえないことを学んだのも、あの場所でした。現在めちゃくちゃ役立っています。


その後は、オフ会盛んな電子探偵団を見習えれば良かったのですが、僕たちは本名も顔も互いに知らないまま疎遠になってしまいました。僕はそれからもネットで生き続け、今はクイズのYouTuberをやっています。人生どうなるか分からないものですが、本質は変わらないものだとも思います。


子どものころ好きだった本はありますか。その本は今でも好きですか。憧れたものは、未だに輝いて見えますか。もう一度読んでみませんか。

書き手:河村・拓哉

YouTuber。Webメディア&YouTubeチャンネル「QuizKnock」のメンバーとして東大卒クイズ王・伊沢拓司らと共に活動。東京大学理学部在籍。Twitter:@kawamura_domo
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