現役大学生が読んだ!『風が吹いたり、花が散ったり』/朝倉宏景

文字数 1,508文字

現役の大学生が本を読んで、率直な感想を語ります!

今回は『あめつちのうた』の著者。朝倉宏景さん『風が吹いたり、花が散ったり』です!

『風が吹いたり、花が散ったり』はこんなお話!


漫然と日々を過ごしていたフリーターの亮磨は、バイトからの帰り道、視覚障害者の女性にぶつかって転倒させてしまいます。気が動転し一度は無言で立ち去りかけたものの、罪悪感から第三者を装って助けに戻ります。するとその場で、ブラインドマラソンの伴走者に誘われてしまい……。

「風が吹いたり、花が散ったり」感想 / A.U


「風が吹いたり、花が散ったり」はフリーターの主人公が図らずも伴走者に誘われ、ブラインドマラソンに挑む様子を描いた小説である。


 マラソンは青春小説の王道テーマだ。装丁もさわやかな雰囲気。しかし、読んですぐ主人公亮磨の性格の曲がり具合に驚いた。夢や目標を掲げる人に対するちょっと斜に構えた態度は、青春小説の王道主人公とは程遠い。視覚障害者のさちにぶつかっても一度は助けず立ち去ったり、アルバイト先でうまくいかないと逆ギレ状態になったり。本作の主人公ははっきり言って情けない。


 そう思いつつも、彼の気持ちがわかってしまう自分もいる。失望されるのが怖くて、責任を負うのが怖くて、逃げてしまうのだ。普段から逃げるような生き方をしてきたら、簡単には変われない。同じ毎日の繰り返しから抜け出せない。


 けれど、さちと出会い伴走をすると決めた亮磨は、練習を始めて少しずつ変わっていく。これぞ青春小説の醍醐味だ。周囲の温かさに触れ、自分自身も努力を重ねることで心情が変化していく。心が変わると、同じ景色や同じ人も見え方が変わっていく。


 これは、やり直しの物語だ。視力を失ったさちと、犯罪に加担した亮磨。両者とも、人生の途中で大きな転機が訪れた。一度今までの普通の暮らしから外れたら、元に戻るのは難しい。持っていたものを一度に失って、振出しに戻るどころかマイナスになったような感覚になって、希望が持てずに腐ってしまう人も多いだろう。でも、2人は新たな一歩を踏み出した。


「これに失敗したら人生終わりだ」と度々悲観的に考えてしまう私は、この本に勇気をもらった。自分の人生「終わった」と思っても、本当の意味で終わらせてしまうか、はたまた這い上がれるか、それはすべて自分次第なのだ。作中に、本来の意味よりずっとポジティブに「悪あがき」という言葉が使われている。これから先躓くことがあっても、「悪あがき」して生きていきたいと思う。


 2人の他にも、自分に向き合い変わっていく人々が登場する。ぜひ注目して読んでみてほしい。


『あめつちのうた』の著者が贈る、ブラインドマラソン×青春小説!


大学生から熱い支持!

【第24回島清恋愛文学賞受賞作】


漫然と過ごすフリーターの亮磨。

バイトからの帰り道、視覚障害者の女性にぶつかり転倒させてしまう。

気が動転して無言で立ち去りかけたが、罪悪感から第三者を装って助けに戻る。

その場で、ブラインドマラソンの伴走者に誘われてしまい――。

爽やかな風が吹き抜ける青春小説!

朝倉 宏景(アサクラ ヒロカゲ)

1984年東京都生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。2012年『白球アフロ』(受賞時タイトル「白球と爆弾」より改題)で、第7回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞。選考委員の伊集院静氏、角田光代氏から激賞された同作は2013年に刊行され話題を呼んだ。'18年『風が吹いたり、花が散ったり』で島清恋愛文学賞を受賞。他の著作に『野球部ひとり』『つよく結べ、ポニーテール』『僕の母がルーズソックスを』『空洞に響け歌』『あめつちのうた』『日向を掬う』などがある。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色