「選択肢の大海原の中で」安藤祐介

文字数 1,033文字

(*小説宝石2021年11月号掲載)
2021/10/28 10:22

活にまつわる物語を書くにあたり、大学三、四年生の方々にお話を伺いました。皆さん迷い悩みながらも真摯にご自身の進路と向き合っておられ、感服しました。


 私の就活はひどいものでした。時は就職氷河期ど真ん中の一九九九年。大学三年の三月頃から出遅れ気味に就活を始め、五十社ぐらい落ち続けました。ほぼエントリーシート落選か一次面接落選。毎日が本当に苦痛でした。御社が第一志望と言い続け、本当はどこでもいいから内定をもらって就活から解放されたいだけ。人生の選択から逃げていました。


 夏も盛りの八月、幸運にも一社だけ食品メーカーの最終面接を通過。ところが内定式直前の九月下旬、私はその唯一の内定を辞退します。就職せずにバンド活動に懸けたいと正直に話しました。苦痛だった就活の末、最も真剣に下した選択は皮肉にも、唯一の内定を捨てることでした。


 しかしバンドの夢も大学卒業を待たずして早々に挫折。卒業後はブラック企業に迷い込み、過労で倒れて退職。それから酒類業界新聞の記者に採用されるも試用期間内でクビになるなど、踏んだり蹴ったりでした。


 その後、職を転々としつつ、路上バンドに乱入して意気投合したり、路上で出会ったおじさんに弟子入りしてギターを教わったり、友人の何気ない言葉をきっかけに小説を書き始めたり、無数の選択を重ねて今に至ります。就活での失敗以来、地獄も見ましたが、よかったことも沢山ありました。


 人生の様々な節目の場面では「いかに選ばれるか」が重視されがちですが、結局はどんな場面でも「自分はどうしたいのか」が大切なのではないかと思います。


 この度の新刊『就活ザムライの大誤算』は、他者の評価や他者との競争に固執し、大切なものを見失ってしまった若者の葛藤と再生の物語です。就活に限らず日々の仕事や私生活で思い悩む多くの方々にご一読いただければ幸いです。

2021/10/28 10:24
2021/10/28 10:26

【あらすじ】

蜂矢徹郎、大学三年生。行動原理は内定獲得のため。常時スーツに敬語、友人の取捨選択は就活に有益か否か。周囲から就活侍とイジられているがどこ吹く風。ところが予期せぬ出会いにペースは乱れ……。就活戦線と青春の道を空回りで全力疾走のエンタメ長編!


【PROFILE】

あんどう・ゆうすけ

1977年福岡県出身。2007年『被取締役新入社員』でTBS・講談社第1回ドラマ原作大賞を受賞。19年『本のエンドロール』が本屋大賞11位。他に『六畳間のピアノマン』『夢は捨てたと言わないで』など。

2021/10/28 10:28

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