◆No.9 敗れざる者 ~藤木和泉(下)
文字数 1,245文字
藤木和泉が物語で果たす役割からすれば、常に朗らかで華のある人物にすべきです。
一見単純で、行動も感情も分かりやすく、思いやりがあり、皆に好かれるタイプ。
そのほうが悲劇性も高まりますから。
ちょうど陰翳のある薦野弥十郎と対比されるべきキャラにしました。
和泉と弥十郎の間の友情が、この物語の主軸です。
表面的には悪口を言い合う仲なのに、心はしっかりと通じ合っていて、たとえ敵味方に分かれても、最初から最後まで、互いを完全に信頼しきっている。そんな男同士の友情を描きたかったんです。
いずれも優れた才能を持った3人の若者がいる。
友であっても、ライバルでもいいのですが、
ある場所、ある時代に、生まれ合わせたとします。
今も昔も、その3人が3人とも輝けるはずはないんですよね。
そんなに世の中は甘くない。
輝いた1人あるいは2人は、輝けなかった友に、いかなる思いを抱くのか。
間違えば命を落とす戦国時代だからこそ、最もシビアにこの現実が描けるはず。
大友による立花山城攻めにあって、
鑑連が本陣まで攻め込まれて苦戦したという事実は、あるようです。
戸次側の戦死者は分かっているのですが、立花軍側は誰が指揮したかは不明です。
ゆえに勝手ながら、物語の見せ場として採用しました。
私はエンタメ歴史小説を書いています。
例によってフィクション9割。
それでも、歴史には残っていないだけで、
きっと戦国日本のどこかに、藤木和泉のような武将がいたはずだと、
私は強い確信を抱いています。
赤神 諒(アカガミ リョウ)
1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記』『神遊の城』『酔象の流儀 朝倉盛衰記』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。