「粋で雅な(?)ブライダルミステリ」 青柳碧人

文字数 1,010文字

(*小説宝石2021年6月号掲載)
2021/05/26 13:48

京スカイツリーの通常ライトアップには三種類ある。「粋」「雅」「幟(のぼり)」と名付けられたそれぞれの照明が、毎晩日替わりであのスタイリッシュなフォルムを彩るのだ。


 開業当初から東京スカイツリーが好きで、いつか作品に登場させたいと思っていた。折から降ってきたアイディアとジャン・コクトーの戯曲『エッフェル塔の花嫁花婿』のタイトルが頭の中で組み合わさり、書きはじめたのが、今回上梓することになった『スカイツリーの花嫁花婿』だ。


 物語は「カーテンコール」と題された、挙式の直前のシーンから始まる。花嫁は両親の前で幸せをかみしめつつ、別室にいる花婿のことを考えている。だがここでは、その花嫁・花婿の名前は明かされない。第一章からは、曳舟(ひきふね)、錦糸町、秋葉原……とスカイツリーの見える街を舞台に、恋に不器用な男女の悲喜こもごもが描かれるドタバタ前日譚。いったい冒頭の花嫁と花婿は誰だったのか。「犯人捜し」ならぬ「花嫁・花婿捜し」という、一風変わったミステリに仕上がった……と、著者本人は思っている。


 いちばん注目してほしいのはクライマックス、夜の東京スカイツリーに見守られながらのプロポーズのシーンだ。実際に隅田川(すみだがわ)沿いのカフェにノートパソコンを持ち込み、暮れゆく空に聳(そび)えるスカイツリーを見ながら書いた。当夜のライトアップは「雅」であった。


 ミステリだが、ラブコメディと思って読んでもらってもまったく構わない。ミステリファンが「これ読んでみてよ」とミステリを読まない人に紹介したくなる作品―というのがいちばんの理想である。自粛ムードで出会いの場は少なくなり、不器用な男女がいっそう恋愛に踏み出しにくい世になった。せめて小説の中でくらいこんなことが起こってもいいじゃないかと、愉快な気持ちで読んでもらえたらうれしい。

2021/05/26 13:55
2021/05/26 13:55

【あらすじ】

スカイツリーが見下ろす街で、恋する男と女が右往左往。誰かの小さな意地悪が、誰かの大きな救いになる……かもしれない。「犯人当て」ならぬ、前代未聞の「花嫁花婿当て」! 幸せな結婚をするのは誰なのか!?


【PROFILE】

あおやぎ・あいと 1980年、千葉県生まれ。早稲田大学卒。2009年、『浜村渚の計算ノート』で「講談社Birth」小説部門を受賞し、デビュー。2020年、『むかしむかしあるところに、死体がありました。』が本屋大賞にノミネート。

2021/05/26 13:56

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