小ジワが気になる夜に……『きれいなシワの作り方 淑女の思春期病』
文字数 923文字
同じ生年月日の友人がいる。
早生まれ同士、同年代の中では誕生日が最後の方になる。「大人になってからなんだか得した気分だよね」なんて言いながら、ついに私たちは今年30歳になった。
歳を重ねるのが怖いわけではないけど、数字が増えることの妙な責任感や自分が想像していた大人とのギャップに少々困惑した。
誕生日が過ぎた後日、「30歳どう?」と彼女に聞いてみると返ってきたのは「なんか小ジワが気になる」という言葉だった。
そこで思い出したのは村田沙耶香さんの『きれいなシワの作り方』。30歳を目前にした数年前から、理由なき静かに迫りくる緊張を安心に変えるため、人生の先輩たちの歳を重ねることにまつわる赤裸々なエッセイを読むようになった。
この作品を手にしたのはタイトル惚れ。なんだか私もほうれい線が気になるな、とちょうど思い始めたころだった。表題作のエッセイは村田さんも当時の私と同じく20代後半、化粧品売り場で遭遇した自分の顔の皺とそれをより浮き彫りにさせる販売員による警告のような言葉から始まる。
そこから皺は美しいと言いながら高級クリームを塗り込んだり、表情筋の体操に励んでいく姿は自分と重なり、これは私の教科書なのではと一気に読んでしまったことを覚えている。この作品を読んで数年が経った今、未だほうれい線は私を悩ませる種である。
でもさほど絶望はしていない。もちろんいろんなものを聞いては試しを繰り返してしまうが、そうやって年齢や変化していく自意識と奮闘していくことは意外と楽しいと感じている。大人になればなるほど一喜一憂するものが減っていってしまう中で、日々を活発にする着火剤のようなものになっている。作品に登場する40年後の理想の自分の話も同様に未来をワクワクさせてくれるものだ。
そうだ、友人にもこの本を薦めよう。私の理想の40年後は、自分のおばあちゃんのように毎日全身紫コーディネートでキメる事です。