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〈7月8日〉 矢野隆
文字数 2,994文字
争
(
あらそ
)
いのない
国
(
くに
)
その
国
(
くに
)
では
争
(
あらそ
)
いが
続
(
つづ
)
いていた。
ずっとずっと……。
この
国
(
くに
)
で
一
(
いち
)
番
(
ばん
)
長
(
なが
)
生
(
い
)
きの
老
(
ろう
)
人
(
じん
)
がまだ
赤
(
あか
)
子
(
ご
)
だった
頃
(
ころ
)
から、
争
(
あらそ
)
いは
続
(
つづ
)
いている。
今
(
いま
)
では
国
(
こく
)
王
(
おう
)
ですら、なぜ
敵
(
てき
)
国
(
こく
)
を
憎
(
にく
)
んでいるのか
解
(
わか
)
っていない。なのに
争
(
あらそ
)
いは
続
(
つづ
)
いていた。
敗
(
ま
)
けられないという
理
(
り
)
由
(
ゆう
)
だけで
憎
(
にく
)
み
合
(
あ
)
っている。
毎
(
まい
)
日
(
にち
)
毎
(
まい
)
日
(
にち
)
、
人
(
ひと
)
が
死
(
し
)
ぬ。
敗
(
ま
)
けないために
兵
(
へい
)
士
(
し
)
たちが
死
(
し
)
んでゆく。
争
(
あらそ
)
う
本
(
ほん
)
当
(
とう
)
の
理
(
り
)
由
(
ゆう
)
すら
解
(
わか
)
らない
戦
(
たたか
)
いは、どうすれば
決
(
けっ
)
着
(
ちゃく
)
がつくのか
誰
(
だれ
)
にも
解
(
わか
)
らない。とにかく
後
(
あと
)
に
引
(
ひ
)
けないから、
司
(
し
)
令
(
れい
)
官
(
かん
)
は「
前
(
まえ
)
へ
前
(
まえ
)
へ」と、うわ
言
(
ごと
)
のように
繰
(
く
)
り
返
(
かえ
)
す。
国
(
こく
)
王
(
おう
)
は
民
(
みん
)
衆
(
しゅう
)
に「
戦
(
たたか
)
え!」としか
言
(
い
)
わない。
国
(
こく
)
王
(
おう
)
も
司
(
し
)
令
(
れい
)
官
(
かん
)
も、
意
(
い
)
味
(
み
)
などとっくの
昔
(
むかし
)
に
見
(
み
)
失
(
うしな
)
っているのに。
みな
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
てていた。
「
止
(
や
)
めよう……。こんな
馬
(
ば
)
鹿
(
か
)
げた
争
(
あらそ
)
いなんか、
今
(
いま
)
すぐに
止
(
や
)
めてしまおう」
誰
(
だれ
)
もがそう
言
(
い
)
いたくて
仕
(
し
)
方
(
かた
)
ない。なにかが
変
(
か
)
われば、すべてが
変
(
か
)
わるはずなのに、みんな
口
(
くち
)
をつぐんでいる。
止
(
と
)
まらない。
止
(
と
)
められない。
争
(
あらそ
)
いは
続
(
つづ
)
く。
多
(
おお
)
くの
兵
(
へい
)
が
死
(
し
)
に、
家
(
か
)
族
(
ぞく
)
たちが
涙
(
なみだ
)
に
濡
(
ぬ
)
れて、
敵
(
てき
)
を
憎
(
にく
)
む。
敵
(
てき
)
を
憎
(
にく
)
んだ
子
(
こ
)
供
(
ども
)
たちは、
大人
(
おとな
)
になると
銃
(
じゅう
)
を
握
(
にぎ
)
って
戦
(
せん
)
場
(
じょう
)
にむかう。
逃
(
のが
)
れられない
死
(
し
)
の
連
(
れん
)
鎖
(
さ
)
は、この
先
(
さき
)
もずっとずっと
続
(
つづ
)
くはずだった。
一人
(
ひとり
)
の
青
(
せい
)
年
(
ねん
)
が
現
(
あらわ
)
れるまでは……。
彼
(
かれ
)
が
行
(
おこな
)
ったことはたったひとつ。
配
(
はい
)
属
(
ぞく
)
された
前
(
ぜん
)
線
(
せん
)
で、
睨
(
にら
)
み
合
(
あ
)
う
敵
(
てき
)
味
(
み
)
方
(
かた
)
のど
真
(
ま
)
ん
中
(
なか
)
で
銃
(
じゅう
)
を
捨
(
す
)
てて
両
(
りょう
)
手
(
て
)
を
広
(
ひろ
)
げ、
泣
(
な
)
きながら
叫
(
さけ
)
んだ。
「もう
止
(
や
)
めようっ!」
青
(
せい
)
年
(
ねん
)
は
殺
(
ころ
)
された。
撃
(
う
)
ったのが
敵
(
てき
)
だったのか
味
(
み
)
方
(
かた
)
だったのか。
真
(
しん
)
実
(
じつ
)
は
闇
(
やみ
)
の
中
(
なか
)
に
葬
(
ほうむ
)
られた。しかし
青
(
せい
)
年
(
ねん
)
の
死
(
し
)
は、
闇
(
やみ
)
に
葬
(
ほうむ
)
られることはなかったのである。
青
(
せい
)
年
(
ねん
)
が
倒
(
たお
)
れる
姿
(
すがた
)
を
目
(
ま
)
の
当
(
あ
)
たりにした
兵
(
へい
)
士
(
し
)
たちが
口
(
くち
)
々
(
ぐち
)
に
語
(
かた
)
り
伝
(
つた
)
え、
両
(
りょう
)
国
(
こく
)
の
民
(
みん
)
衆
(
しゅう
)
の
間
(
あいだ
)
に
広
(
ひろ
)
まった。
敵
(
てき
)
味
(
み
)
方
(
かた
)
の
間
(
あいだ
)
に
立
(
た
)
って
止
(
や
)
めようと
叫
(
さけ
)
んで
撃
(
う
)
たれた
青
(
せい
)
年
(
ねん
)
は、
人
(
ひと
)
々
(
びと
)
の
友
(
とも
)
であり、
子
(
こ
)
であり、
兄
(
あに
)
であり、
弟
(
おとうと
)
になったのだ。
誰
(
だれ
)
もが
青
(
せい
)
年
(
ねん
)
の
死
(
し
)
を
我
(
わ
)
が
事
(
こと
)
のように
考
(
かんが
)
え、そして
涙
(
なみだ
)
した。
“
もう
止
(
や
)
めよう
”
その
通
(
とお
)
りだ。
こんな
愚
(
おろ
)
かなことはもう
止
(
や
)
めよう。
青
(
せい
)
年
(
ねん
)
の
叫
(
さけ
)
びは
人
(
ひと
)
々
(
びと
)
のスローガンになった。
両
(
りょう
)
国
(
こく
)
のあらゆる
場
(
ば
)
所
(
しょ
)
で
民
(
みん
)
衆
(
しゅう
)
は
立
(
た
)
ち
上
(
あ
)
がり、
徴
(
ちょう
)
兵
(
へい
)
を
拒
(
こば
)
む
者
(
もの
)
たちが
次
(
つぎ
)
々
(
つぎ
)
と
現
(
あらわ
)
れた。
前
(
ぜん
)
線
(
せん
)
でも
変
(
へん
)
化
(
か
)
が
起
(
お
)
こり
始
(
はじ
)
める。
兵
(
へい
)
士
(
し
)
たちがみずから
銃
(
じゅう
)
を
捨
(
す
)
て、
睨
(
にら
)
み
合
(
あ
)
いを
止
(
や
)
めたのだ。
戦
(
せん
)
線
(
せん
)
を
維
(
い
)
持
(
じ
)
できなくなった
両
(
りょう
)
国
(
こく
)
の
王
(
おう
)
は、ついに
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り
合
(
あ
)
った。
双
(
そう
)
方
(
ほう
)
、
得
(
え
)
た
物
(
もの
)
はなく、
失
(
うしな
)
ったものがあまりにも
多
(
おお
)
い
争
(
あらそ
)
いだった。
しかし
長
(
なが
)
い
悪
(
あく
)
夢
(
む
)
は
終
(
お
)
わったのだ。
一人
(
ひとり
)
の
青
(
せい
)
年
(
ねん
)
の
勇
(
ゆう
)
気
(
き
)
ある
行
(
こう
)
動
(
どう
)
によって。
世
(
せ
)
界
(
かい
)
は
変
(
か
)
わる。
変
(
か
)
えようと
思
(
おも
)
えば。
悪
(
わる
)
い
方
(
ほう
)
へも。
良
(
よ
)
い
方
(
ほう
)
へも。
矢野隆(やの・たかし)
1976
年
(
ねん
)
福
(
ふく
)
岡
(
おか
)
県
(
けん
)
久
(
く
)
留
(
る
)
米
(
め
)
市
(
し
)
生
(
う
)
まれ。2008
年
(
ねん
)
『
蛇
(
じゃ
)
衆
(
しゅう
)
』にて
第
(
だい
)
21
回
(
かい
)
小
(
しょう
)
説
(
せつ
)
すばる
新
(
しん
)
人
(
じん
)
賞
(
しょう
)
を
受
(
じゅ
)
賞
(
しょう
)
。
続
(
つづ
)
けて『
無
(
ぶ
)
頼
(
ら
)
無
(
ぶ
)
頼
(
ら
)
ッ!』『
兇
(
きょう
)
』『
勝
(
ガ
)
負
(
チ
)
!』など、ニューウェーブ
時
(
じ
)
代
(
だい
)
小
(
しょう
)
説
(
せつ
)
と
呼
(
よ
)
ばれる
作
(
さく
)
品
(
ひん
)
を
手
(
て
)
がける。また、『
戦
(
せん
)
国
(
ごく
)
BASARA
(
バサラ
)
3
伊
(
だ
)
達
(
て
)
政
(
まさ
)
宗
(
むね
)
の
章
(
しょう
)
』『
鉄
(
てっ
)
拳
(
けん
)
the
(
ザ
)
dark
(
ダーク
)
history
(
ヒストリー
)
of
(
オブ
)
mishima
(
ミシマ
)
』といったゲームのノベライズ
作
(
さく
)
品
(
ひん
)
も
執
(
しっ
)
筆
(
ぴつ
)
し、
注
(
ちゅう
)
目
(
もく
)
される。
近
(
きん
)
著
(
ちょ
)
に『
源
(
げん
)
匣
(
こう
)
記
(
き
)
獲
(
かく
)
生
(
しょう
)
伝
(
でん
)
』『
愚
(
おろ
)
か
者
(
もの
)
の
城
(
しろ
)
』。
【
近刊
(
きんかん
)
】
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〈7月24日〉 額賀澪
〈7月25日〉 寺地はるな
〈7月26日〉 パリュスあや子
〈7月27日〉 浜口倫太郎
〈7月28日〉 行成薫
〈7月29日〉 矢部嵩
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〈7月31日〉 乗代雄介
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〈8月7日〉 宮下恵茉
〈8月8日〉 大山誠一郎
〈8月9日〉 阿部智里
〈8月10日〉 朝倉宏景
〈8月11日〉 宮西真冬
〈8月12日〉 澤田瞳子
〈8月13日〉 三津田信三
〈8月14日〉 石崎洋司
〈8月15日〉 中島京子
〈8月16日〉 一木けい
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〈8月21日〉 ぶんけい
〈8月22日〉 最果タヒ
〈8月23日〉 伴名練
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〈8月25日〉 折原みと
〈8月26日〉 武田綾乃
〈8月27日〉 伊藤理佐
〈8月28日〉 西尾維新
〈8月29日〉 須賀しのぶ
〈8月30日〉 辻村深月
〈8月31日〉 森見登美彦
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