第51回

文字数 2,409文字

春と夏の間ですね。

いい天気の日こそひきこもりどころ。

頑張っていきましょう。


エブリディ、インターネット、ひきこもり。

心閉ざしてもいいじゃない。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

「面倒くさい」という感情は人間に様々な死をもたらす。

映画『ファイナル・デスティネーション』にだって、一瞬安全確認をすれば避けられた死が結構あった気がする。

全部「何か目に見えない死神の仕業」みたいにされていたが、死神に言わせれば「半分ぐらいはあいつらの“だるさ”が原因だし、そっちの方がエグイ死に方をしてますよ」ということなのかもしれない。


そして「ひきこもり」というライフスタイルほど、この「だるさ」を育てるものはないのだ。

ひきこもりというのは大体ソロでやるものなので、「人の視線」というものがない。


自分の部屋の隅には知らない人がいて、ずっとこちらを見ているという場合は、それが幻覚でも現実でもマズいので早めに対処した方が良い。


人の目があるとどうなるかというと、まず多くの人が服を着ると思う。

それも「2年3組」の「2」にマジックで斜線を引き、上に「3」と書かれている体操服などではなく、人の視線に耐え得る服を着ると思う。


場合によっては、風呂に入ったり、ヒゲを剃ったり、化粧をしたり、胸ポケットにツルバニアファミリーの赤ちゃんを入れたりなどの準備が必要になる。


それらは、ツルバニアファミリーの赤さん以外はどれも「面倒くさい」と感じることが多い作業である。

だが人の視線がないひきこもり生活では、それらを全部スキップすることが可能であり、全裸で胡坐、その中央に赤さん3体というフォーメーションでも特に問題が起こらないのである。


そういう生活を続けると、上記のような「人の視線に耐え得るビジュアルを作る作業」が耐えがたいほど面倒になり、それをやるぐらいなら「外に出ることを断念」するため、ますます社会や人との距離が開く。

もしくは面倒臭さから「外に出てはいけない格好」で外に出てしまい、社会や人の方が自分から距離を取るようになる。

もしくは裸ルバニアファミリースタイルで外出し、国家権力により強制的に社会から排除されるケースもある。


そして、今世間で問題になっている「セルフネグレクト状態」となり、「これは外に助けを求めないと死ぬな」と思っても助けは求めずそのまま死ぬのだ。

何故なら外に出て助けを求めるより、死ぬ方が「面倒くさくない」からである。


こういう人をNHKのニュースなどで表現する場合は、「生きる気力を失った状態」というのだろうが、もっとカジュアルな言い方をすれば「面倒を極めた人」である。


このように、深刻な問題も、元をただせばくだらない(と思われている)ことから来ているのかもしれない。


長いひきこもり生活により、面倒臭さから生きる気力をなくし、社会から「孤立」する可能性は高いが、一方で「一人でいる状態」つまり「孤独」には強くなると言われている。


アルコールに強い人ほどアルコール依存症になりやすいというように、むしろ孤独に強い人ほどひきこもりになってしまうのかもしれない。


「孤独」も社会問題として取り上げられやすい言葉であり、重みがある。

しかし「生きる気力がない」も言い換えれば「生きるのが死ぬほど面倒くさい」となるように、「孤独」ももっと迫力のない表現が出来る気がする。


「孤独」とは、もしかしたら「暇」なのではないだろうか。

全ての孤独の原因が暇ではないとは思うが、「暇からくる孤独」も確実にあるような気がする。


私が会社を辞めてひきこもり、丸3年外の世界や他人と関わりがなくても「孤独」を大して感じてないのは「孤独に強い」からではなく「一人でもやることがある」からな気がする。


今のご時世、ソシャゲを3つぐらい同時進行していたら「やることがない」などということは滅多にないし、去年からここに「桃鉄」が入ってきたため、もはやキャリアウーマンと言っていいほど忙しい


もしキャリアウーマンが孤独を感じるとしたら、「アタシってば仕事ばっかりして、気づけば婚期を逃がしカレシもいない…」などという時ではなく、「久々の休みなのに意外とやることねー!」という時であり「待ってたぜこの時をよお!」と、シン・エヴァンゲリオンを一人で見に行くキャリアウーマンは孤独を感じていない気がする。


暇になると人間はネガティブなことを考えだしたり、「何もしていない」から「自分は世の中に必要とされていない」みたいな、発想の超展開を起こして「孤独」になってしまう場合があるのだ。


よって孤独を感じた時、その正体はただの「暇」かもしれないので、無理に人との繋がりを求め、マルチと不倫に定評があるテニサーに入ったり、元カレに「何してる」とLINEを送って股をドルチェ&ガッバーナする前に、「一人焼肉」などやってみてはどうだろうか。


ソロ焼肉は忙しく、あれで孤独を感じられるのは井之頭五郎ぐらいのものである。

あと単純に「腹が減っている」というのも、孤独の原因だったりする。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は4月23日(金)です。
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