あめつちのうた/朝倉宏景
文字数 1,289文字
丁寧に描きつづけた男がいた。
何百枚、何千枚とPOPに”想い”を込め続けるうちに、
いつしか人々は彼を「POP王」と呼ぶようになった……。
……と、いうことで、”POP王”として知られる
敏腕書店員・アルパカ氏が、
お手製POPとともにイチオシ書籍をご紹介するコーナーです!
(※POPとは、書店でよく見られる小さな宣伝の掌サイズのチラシ)
誰もが経験のしたことのない日々を過ごしている。当たり前がそうでなくなり、「普通」や「日常」という言葉もこれまでとは違う意味を持つこととなった。
あるはずのものがそこにない。
夏の風物詩である甲子園。白球を追いかけていない者たちにとっても甲子園のない夏なんて考えられなかった。この例えようのない寂しさ。何と空虚な気分なのだろう。
まさに今こそ読まれるべき作品。たった一度しかない2020年の夏、この物語を読める幸せを噛みしめたい。
本当に真っ直ぐな想いが伝わる密度の濃い作品である。
しかし立ち止まった時間は貴重で、水は乾いた人生に潤いを与えてくれる。その時間があるからこそ人間らしく成長でき、雨が激しいほどより強くなれるのだ。
人にもそれぞれに個性があって輝く場所がある。そしてどんな生き方にも意味がある。人とは違う要素にも魅力がある。
野球の試合が表と裏で成り立っているように人生という名のゲームもまた激しい攻防の連続だ。グラウンドの中だけでなくどんな場面においても、諦めることなくプライドを懸けて闘う姿は美しくて尊い。
しかしその舞台が眩しいほど影の部分の色が濃いのだ。たった一球で勝敗が分かれる。人生が変わるかもしれない。
知られざる裏方の仕事にスポットライトを向けたこの物語は、明暗渦巻く人生の岐路にたった若者たちの足元をも鮮やかに照らす。
先行きの見えない時代の中でもがき苦しむ、多くの人々の羅針盤ともなる力が漲った一冊だ。読めばきっと大空には爽やかな虹がかかり、明日への確かな一歩を踏み出す力を与えてくれるだろう。
強い生命力と熱いメッセージが伝わるこの小説は青春の塊。見事だ!