No.1 文庫化に当たって
文字数 1,997文字
「戦国BASARA」でもおなじみの伝説的女武将・鶴姫と、主家への復讐を企む若き軍師・越智安成の悲恋を描いた『空貝(うつせがい) 村上水軍の神姫』。
『立花三将伝』や『大友二階崩れ』で戦国の武将たちを描いた赤神諒さん入魂の「恋愛歴史小説」であるこの物語の文庫化によせて、本編には入りきらなかった、とっておきのエピソードお届けいたします!
いよいよ『空貝』が文庫になります!
この間、ご縁があって小説教室で『空貝』を題材にお話をする機会がありました。
デビュー5年目で<小説の書き方>をお話しするのはまだ早いのですが、私は記憶力に自信がないほうなので、デビュー前のことを忘れてしまう前にと、お引き受けしたのです。
受講者の方からは、「この厚さで歴史小説なんて絶対読めないと思いながら読み始めたら、一気に読んでしまいました」とか、「歴史小説は初めてで、読み進められるだろうかと不安でしたがとても面白く読むことができました」といった感想を頂戴して、とっても嬉しかったです。
空貝は歴史小説ですが、むしろ激動する歴史を舞台にした<恋愛小説>として描きました。
「歴史小説は読まねえ」と決めてしまっている、そう、あなたさま。
そうおっしゃらずに、どうぞ手に取って下さいまし。
さてtree編集部からのご要望にお答えし、『空貝』で執筆しなかった構想段階のエピソードを幾つかご紹介しておきましょう。ネタバレ回避のため一部ぼかしてありますが、お赦しください。
当初の設定メモによると、悪役として、大祝家で大内家に内通している家老Aを設定していました。Aのせいで鶴姫と安成はピンチに陥るのです。さらにAの息子も鶴姫に恋していて……と、複雑な人間関係を想定していたようです。ただこの設定でいくと、長くなりすぎるので、他の登場人物に役割を割り当てることになりました。
この物語は徹底的に悲恋なので、カタルシスをどうするか、色々考えていました。
鶴姫が安成の子を産めばわかりやすいですが、赤子を置き去りにしないはずなので入水の伝承が成立しなくなります。安成の妻に赤子を産ませる設定で始めたのですが、ストーリー展開上うまくないため、〇の生存と出産で処理することにしたわけですね。
また、当初の構想では、私にしてはかなり頑張って、戦死直前に鶴姫と安成の濡れ場を入れていました。普段は決してしないので、私にとっては大冒険?です。やる以上は美しく描こうと思い、「これでもか」というくらい時間をかけて書き直しました。
カタルシスの観点から、二人が結ばれないとあまりに可哀想だと考えたからですが、最終的にはやめました。今でも、どちらが良かったのかわかりません。
ところで、『空貝』の逆指名テーマ曲は「I LOVE YOU」ですが、クリス・ハートさんの復帰と共に、2020ver.と2020English ver. が登場しました。ぜひこの名曲を聴きながら文庫版をお楽しみくださいませ。
次回からは文庫化記念として、登場人物に登場してもらい、『空貝』を総括いただきましょう。
■主な登場人物
《伊予水軍》
大祝鶴姫(おおほうり・つるひめ) 大祝家絶世の美姫。陣代で台城主。十六歳。
越智安成 大祝家直属の大三島水軍の軍師。二十歳。
ウツボ 安成の腹心。
村上通康 来島村上水軍の頭領。二十三歳。
村上尚吉 因島村上水軍の頭領。
鮫之介 大祝家に仕える水将。鶴姫の武芸の師。
松 鶴姫の乳母にして、侍女。
大祝安舎 第三十二代大祝。大祝家当主。鶴姫の長兄。
大祝安房 陣代。鶴姫の次兄。
越智通重 大祝家臣。安成の舅。小海城主。
磯 安成の妻。通重の養女。
シャチ 来島村上水軍に身を寄せる少年。
《大内水軍》
小原中務丞 剛勇無双の猛将。別名、鬼鯱。
白井縫殿助 大内水軍きっての謀将。