幽霊恋がたり

文字数 1,229文字

 幽霊譚が好きです。
 おどろおどろしいものから、ほっこりするものまで、書いて良し、読んで良しです。

 残念ながら私自身にはいわゆる霊感がまったくなく、一度も幽霊を見たことがありません。
 友人知人には霊感体質の人が何人かいて、子供の頃から見えていたという人から、とある南の島に行ってから突然いろいろ見えるようになったという人、あるいは、見ることはできないけど、妙な気配を感じることはあるという人までいろいろです。
 なぜその人たちには見えるものが、私には見えないのか。
 私の個人的な解釈ですが、どうやら、私にはチューナーがついていないようです。 
 ほら、BS放送の番組も、BSチューナーがないと受信できないじゃないですか。
 霊感体質の人には、霊感チューナーが生まれつき内蔵されていたり、ある日接続されたりしたのかなぁ、なんて、あくまで想像ですが。

 というわけで、私は霊感ゼロなので、そのぶん、幽霊ってこんな感じなのかしら、と、妄想たくましくして書いています。
 特に萌えるのは、幽霊と生きている人のラブストーリーです。
 よくデビュー作にはその作家のすべてがつまっていると言いますが、私の『警視庁幽霊係』でも、主人公の警部補にずっと片想いしている女子高生の幽霊がでてきます。
 どんなに彼を好きでも、手を握ることすらできない。
 なにせ肉体がないので、すりぬけてしまいます。
 ひたすら見守るしかありません。
 しかし想いがつのりすぎると、あちらへ連れていきたくなってしまう。
 そんなことにならないよう、常に自分を律している必要があります。
 実にストイックで、せつない恋です。

 でも、がっつり憑依してしまえば?
 たまたま取り憑き、自由にあやつることができる肉体があれば、一応は手を握ることも、唇を重ねることもできます。
 しかし悩ましいのは、相手の手を握っているのは、実は宿主の手であるということです。
 いいのか?
 あの人に、他の人間がふれることになってしまうが、それに自分は耐えられるのか?
 究極の選択です。
 しかも四十九日というタイムリミットがじわじわと近づいてきたら……?

 そんなもどかしい、せつなく淡い恋を『四十九日夜のキセキ』では描いてみました。



天野頌子(あまの・しょうこ)
東京外国語大学ドイツ語学科卒業。らいとすたっふ小説塾一期生として学び、2005年『警視庁幽霊係』でデビュー。元イケメンホストの毒舌陰陽師と妖狐の少年コンビが活躍する「陰陽屋シリーズ」はテレビドラマ化され、ロングセラーとなっている。他の作品に『警視庁幽霊係の災難』『タマの猫又相談所花の道は嵐の道』「僕と死神シリーズ」など多数がある。

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