10冊目/安藤祐介の『本のエンドロール』

文字数 1,411文字

独自WEBメディアやYouTube、はては地上波ゴールデンまでーー。

幅広く活躍の場を広げ続ける東大発のクイズ集団「QuizKnock」。


その人気ライターである河村・拓哉さんが初の書評連載 『河村・拓哉の推し・文芸』!


今回は第10冊目、ついに最終回です。掉尾を飾るのは、安藤祐介の『本のエンドロール』。

紙の本で買ってください。


読書が進むにつれ、本の重みが分かっていく。この体験のためには、紙の本でなければなりません。読後のこの重みを共有したいのです。


タイトルの「本のエンドロール」とは、奥付のこと。奥付とは、本の最後にある、著者などの他に、まさに本作の舞台である印刷会社などが記されたページのことです。


本が出来上がるまでの舞台裏を描いたお仕事小説。様々な業務を担当する、たくさんの登場人物が登場します。印刷会社では主人公の熱血営業・浦本の他、対極的で冷静な先輩営業マン、熟達の技術を持つ工場作業員たち、敏腕DTPオペレーターなど、多くの社員が働いています。社外でも、個性豊かな作家、編集者、装丁家など様々な人たちが本の製作に携わります。多くの人が関わる、本造りの現場の臨場感が感じられるのが魅力。


プロローグで問われるテーマは、「印刷会社は、メーカーか?」。印刷業はクリエイティブなものづくりか、それとも与えられた作業を正確に処理する作業か。真摯に仕事に向かい合い、この難問に立ち向かっていきます。彼らはどのような答えを出すのでしょうか。


現代社会で紙の本の話をする時、電子書籍への言及は不可避です。実際に後半の章では電子書籍が話題になります。一般的な優劣はここでは論じませんが、この本においては、紙に軍配を挙げたい。紙媒体で買われることによって、我々に2つの特別な体験を提供するからです。


まず、「紙の本についての紙の本」というメタ的な読書体験。小説を読みながら、物体としての本を見る。だから読者は、なるほどこれがハードカバーか、などと考えることが出来ます。これは電子的な文字だけでは不可能なことです。


もう1つは、登場人物を応援できること。紙で買うことが、そのまま主人公や印刷業界の応援につながる。印刷は、言ってしまえば斜陽産業です。そんな中でひたむきに頑張る彼らを、購入という行為自体が援助する。


本のどこかに、黒地に白文字が書かれた見開きのページがあります。これが、いい。きっと紙でしか味わえない体験です。


さて。


ここまで連載した書評は、読み物ではありますから、それ自体が面白いようには書きましたが、基本的には小説を応援するための文章です。


現実として本は、それ自身のためにも、産業全体のためにも、売れなければなりません。


買ってください。ぜひ、紙で。


この本を、いえ、どの本でも、実際に手に取っていただけたら、僕はとても嬉しいです。

書き手:河村・拓哉

YouTuber。Webメディア&YouTubeチャンネル「QuizKnock」のメンバーとして東大卒クイズ王・伊沢拓司らと共に活動。東京大学理学部在籍。Twitter:@kawamura_domo

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