第21回/一人旅と孤独

文字数 2,188文字

こちらはインターネットに生息するふしぎないきもの・にゃるらがインターネットと独り暮らしとそれ以外について深夜に執筆している画像付きエッセイです。→@nyalra


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 この原稿が載る頃には、すでに一ヶ月以上前の話になっていると思われますが、一週間ほど一人旅へ出ていました。いつまでも自室に引きこもっているから精神も内に篭ってしまうのであって、外出をして解放的になればなにかポジティブな変化が起きると考えたのです。


 あてもなく新幹線に乗り、名古屋で降りる。もちろん名古屋でも特に予定はなくビジネスホテルへ。ロビーでは、多数の外国人観光客が日本旅行に胸を躍らせながら雑談して笑い合っている。きっと、彼らは友人たちと楽しいトリップを行う。多少のトラブルもあるかもしれないが、それも含めてよい経験となるでしょう。


 翌日、岐阜へ。昨晩はホテルに泊まっただけで終わってしまったので、ようやくこれから一人旅が始まる。できるかぎり、「ザ・観光地!」って場所に行きたくなかったので、ちょっと田舎の街並みを見たり、マイナーなレトロスポットなどを回ることに。というのも、僕は沖縄生まれでザ・観光地な地域のすぐ近くに住んでいたので、「観光客はなぜかこのあたりに来たがるけど、地元民からすればなにも楽しくない」感覚はわかる。


 たとえば、海。沖縄へ訪れる内地の人たちは必ず海を求める。そして真夏に人気のビーチへと繰り出すわけですが、当然そのせいでビーチは人でいっぱいに。沖縄なのに沖縄人(うちなーんちゅ)は全然いない海。しかたないので現地の子供たちはもっとひっそりとした小さな釣りスポットなどで泳ぐこととなる。が、これがまた楽しい。ビーチとちがって飛び込んで遊べるし、なにより人がいない。沖縄なんて冬でも半袖小僧で溢れているくらいだから、一年中泳げる。さらに、観光地の近くのお店は総じてぼったくり価格。高校生の頃に観光地の居酒屋でアルバイトをしていましたが、よくまあ旅行で気分が乗っているからって、こんな価格で沖縄料理に手を出すものだと思った。現地民なら絶対別の店に行く。


 そういった意識が植え付けられたので、その県の真の魅力はザ・観光地にはないと考えている。なので、できるかぎりマイナーな場所を旅することにしたのです。それこそ一人旅ならではの醍醐味。


 たとえば、岐阜レトロミュージアム。山奥にある昭和な香りが充満する楽園は、その地域のおっさんたちがレトロパチンコで暇を潰して賑わっていた。これこそ僕が求めていた光景です。

 それからしばらく、そのようなスポットを回っていたのですが(僕は田舎のでっかい商業施設にあるゲームセンターの独特な空気が好き)、やっぱり少しくらい観光地も巡ってみようと名古屋から船に揺られて島へ行ってみた。……それがもう大失敗も大失敗! なんと島中にカップルが溢れているではないか。

 このブランコなんか、「エロゲーのCGすぎるだろ!」と写真を撮りに行こうとするも、どうやら恋人と2人で漕ぐのが正当な楽しみ方らしく、何組ものカップルで順番待ちをしていた。1人でやってきた間抜けは僕だけ。カップルたちが談笑しながら並んでいる中、僕だけぽつんと立っている。みんな「この人なんだろう……?」と不思議そうに顔色を窺っている。恋人用のブランコに独り身のオタクが何の用で? と考えているのだろう。悔しい。


 僕だけ1人でブランコを漕ぎ、海の方へ行くと、当然そこでもカップルたちだらけ。非日常に酔って公衆の面前で抱きついちゃったりまで。ああ見てらんないよ! と思うが、これは孤独からの嫉妬でしかなく、2人で海まで来たらイチャつく方が必然。むしろ、こんな島まで1人で来る方が怖い。なにかの犯罪目的?


 旅館なんて、もっと悲惨でカップル・夫婦が前提だったらしく、部屋にはベッドが二つ。料金も2人分。そして、料理も2人分だった。周囲がカップル・夫婦でワイワイしながら郷土料理を満喫する中、僕だて黙々と口へ運ぶのみ。さらには、隣の空席にも料理が並べれていき、それを見たおっさんが「恋人にフラれて1人で来たのかな?」とくすくす笑っている。それを聞いた仲居さんが気遣って接してくれる優しさが余計につらい。そして、少食な僕が2人分も食べるハメとなったのがもっとつらい。


 結局、自室で耐えきれず吐いてしまった。そして、気分が悪いまま二つ並んだベッドへ。はじめは全く気にしていなかったのに、気遣われてみると、たしかに自分が「旅行日の直前にフラれてドタキャンされた傷心のダメ男」に思えてくる。なんで居ない恋人の面影を幻肢痛で感じなければならないのか。


 僕には、観光地は早かった。人は、他人といるときに真の孤独を感じる。窓辺から海を見渡せば大量のカップル。別にいまさら恋人がいる人間を叩くほどのやっかみを持ち合わせてはいないが、寂しさを埋めるための旅が余計に寂しさを感じる結果となったのは言うまでもない。

【綺麗なガラス玉】


旅行先の展覧会で購入した、ガラス玉の中に青く透き通った世界が閉じ込められている素敵な美術品。話を聞いてみると、若い男性クリエイターによる作品らしい。こういった「美」を旅行先で集めるようになるといよいよ大人になってきた感覚がありますね。

来週も月曜深夜に更新予定です。それでは、おやすみなさい。

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