第18回

文字数 2,867文字

東京を中心に、コロナ感染者が再び激増し、政府肝いりの”Go Toキャンペーン”も迷走している。

隙あらば、BBQやシャンパンタワーに興じたいという向きには、まだまだ厳しい時代が続きそうだ。


「ひきこもりこそ世界を救う」という千年に一度のパラダイムシフトが起きつつある今、どうすれば人類が生き抜けるのか、意外とためになるヒントが、そのライフスタイルからは見えてくる。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、困難な時代のサバイブ術!

とりあえず経済的問題さえクリアすれば、たとえひきこもりでも当面の問題はない。

そう再三言ってきたが、逆にいうとそこが最難関なのだ。


幸か不幸か、コロナの影響でリモートワークが広まり、会社に所属しながら家に引きこもって賃金を得られる、という夢の働き方への道が急速に開けてきた。


実際、私の担当編集者たちも未だに在宅ワークの者が多く「一生このままでもいい」などと供述している者も少なくない。


我々無職が、雇用保険や厚生年金など全ての社会保障や信用と引き換えに手に入れた「家から出なくていい」という特権を、大手出版社の固定給野郎どもが手に入れているかと思うと、コロナに罹らずとも、全身から沸騰した血が噴き出す奇病で絶命しそうになる。


だが、家でも可能な仕事に「通勤」というコストをかけ、「健康被害」というリスクを負ったうえ、5分に1回老が「何もしてないのにパソコンがポルノ画像を表示したまま固まった」と申告して来る環境で働かせるのがわが社の方針、という会社が未だに多いのも事実である。


結局、会社に所属しながら家で働くというのは会社の采配に依るところが大きく、自分の希望通りにはいかないことも多い。


よって、ひきこもりながら自立するとしたら、やはり「フリーランス」が一番手っ取り早いということになってしまう。


私も、会社に所属せず生計を立てているという点では「フリーランス」なのだが、名乗る時は「無職」と言うようにしている。

これは嘘や、まして謙遜などではなく、我が村で「フリーランス」などと名乗って一発で理解してくれる人は稀であり、最悪そういう宗教団体と思われてしまう。

そして仕事内容を説明したところで相手の顔には「それは無職と何が違うのか」と油性で書いてあるのだ。


親とかにそう言われるのは仕方がない。老父母を安心させられる仕事に就けなかった俺が悪い。

しかし、フリーランスの人がコロナ禍で役所に支援を求めに行ったところ「支援を受けたいならまず就職活動してください」という激アツアドバイスを役人にいただいた、という噂もある。

つまり「みんな知っている職業」「説得力がある」という点でいえば、フリーランスよりも「無職」の方が圧倒的に信用度がある職業なのだ。

つまり私が「無職」と名乗っているのは卑下ではなく、むしろ「学歴を盛っている」ぐらいの感覚なのだ。その内、ショーソなんとかさんみたいになるのではないかとヒヤヒヤしている。


ともかく、家から出ず、集団に属さず生きるには、フリーランスになるのが一番早い。


そういうと「フリーランスはそんなに甘いものではない」という言葉が必ず返ってくる。

それは事実だが、毎朝出社し周囲の人間とコミュニケーションをとりながら働くという行為が甘いかというとそうでもないだろう。


「甘い方を選ぶ」という発想自体がスイートであり、人生は「両方激辛だが辛うじて食える方を選ぶ」というテンションの上がらない選択の連続である。


かく言う私も、会社員時代は「フリーランスになって貧乏だけど豊かに暮らしてます」みたいな話を聞くと、「やせ我慢を言いやがって」と思っていた。


しかし今なら、彼らは「貧乏生活が楽しい」と言っているわけではなく、貧乏より遥かに「出社して他人と働くこと」の方が辛すぎるため、そこから解放されることで相対的に本当に豊かになっているのだと気付いた。


つまり、フリーランスになって貧乏かつ不安定になっても、会社員時代に比べれば幸せだと感じられる人はたくさんいるということだ。

結局自分にとって何が幸せか理解出来てない内は、なかなか幸せにはなれないのだ。


では「フリーランス」といっても具体的に何をしたら良いのだろうか。

答えは「金が稼げて法律に反していなければ何でもいい」である。


実際何で稼いでも、雇用保険なし厚生年金なしなのは一緒なのだ。稼ぐ内容は特に関係ない。


もちろん私のような漫画家やライターもフリーランスの一種だが、これらは不安定といわれるフリーランスの中でも、抜けかけの犬の乳歯レベルにグラグラなので特におすすめはしない。

まだ何をやるか考えていない、というのであれば、できるだけ需要が切れず、つぶしが効く技術が身につく仕事をお勧めする。


つぶしとは、もしフリーランスひきこもり生活に失敗しても再び社会復帰できるスキルのことだ。

この点でいうと漫画家などマイナス5京点であり、我が村では履歴書に「漫画家」と書くぐらいなら、まだ空白にしておいた方がマシなレベルである。


ネットでフリーランスの職種について調べてみたところ、webデザイナーやプログラマーなどITスキルを用いた仕事が推奨されている。

確かにこれらのスキルがあれば、企業への社会復帰もしやすいだろう。

ただ、いきなり独立というのも難しく、スキルだけでなく、ある程度会社での実務経験、そして独立後仕事をもらうための人脈も必要だそうだ。

下手をすると、会社員時代よりコミュ力がいるということにもなりかねない。


これはどの職種でもいえることで、フリーランスになると時には自分で仕事を取ってくる営業力も必要になり、もちろん経理や事務なども自分でやらなければならない。

つまり「全部自分でやる」ということだ。

そして何度も言うが、社会補償は会社員に比べて明らかに冷遇である。


この時点で「会社で働く方か明らかに楽」と思った人も多いだろう。


実際全くその通りなのだが、世の中にはこのような万難や貧乏よりも「社会で生きていく方が耐えられない」という人間がいるのだ


つまり「フリーランスの大変さに比べたら、会社に行く方が全然マシ」と思えるのも才能の一つなのである。


その才能に恵まれた人は、ぜひその才能を生かし、これからも安定的な生活を送ってほしい。

★次回は9月4日(金)更新です。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中。

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