第32回/世界の物価がどったんばったん大騒ぎ! とても辛い

文字数 2,484文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

物価高である。


もうどさくさに紛れて上げなくていいものまで上げているのでは、と言うぐらいあらゆるものが値上がりしている。

私は普段から値段を見ずに買い物をしている。時代に左右されない貧乏行動を取っているのでそこまで値上げを体感することがない。

だが、さすがにコーラが「俺がでかくなったのか?」と錯覚するレベルで縮んでいたり、パブロソまで値上げされれば気づく。


しかし、物価高なのはようやくわかったが、なぜ物価高なのかがイマイチ理解できていない。なぜこれだけ物が高くなり、しかも「仕方がないムード」なのか。


このように、金がない人間は何故自分に金がないのか、原因すらわかっていない場合が多い。

体調不良の理由が「頭に矢が刺さっているから」だと気づけなければ、永遠に矢を抜くことができずそのまま死ぬのと同じで、貧乏も原因がわかっていなければ脱することは不可能であり、そのまま死ぬ。


しかし今回の物価高は、ウクライナ侵攻や円安など問題が世界規模なため、原因がわかったところで個人ではどうしようもないのも確かである。


円安ということはドル高ということである。

日本ではダイエットコーラ自身がダイエットしてしまっているという惨状なのに対し、アメリカは好景気で、逆にコーラがさらにでかくなっているのだろうか。


そう思っていたが、「アメリカも日本の比ではないぐらい物価高でマジで困っている」と聞いて笑顔になった。

やはり人類皆兄弟、言葉は通じなくてもお互いノーマネーならわかりあえる。


日本よりも海外の方が賃金が高いので、海外で働こうという向きもあるらしいが、現在のアメリカはいくら賃金が高くても物価上昇がそれを遥かに凌駕しており、特に物価が高い都市だとラーメン一杯2000円ぐらいするので今移住は全くおすすめできないらしい。

ちなみに、ジョニー・デップやロバート・ダウニーJrが指を入れて運んできたラーメンではなく、普通のラーメンがだ。


よってアメリカの一般庶民たちも、我々と同じく節約や副業で凌いでいるという状態らしい。


節約といえばまず住居費や電気水道、通信費など固定費を抑えるのが基本だが、アメリカでの生活は住居費を大幅に抑えることができない、という。


何故ならアメリカは自由の国であり、そのフリーダムの中に銃を持つ自由も含まれているからだ。

日本にも治安が悪い地域というのはあるが、それでも2日に1回チャカの発砲音が聞こえるという場所はおそらくない。

誰とて男根を持っていたら、まず間違いなく握ってみるだろうし、機会があれば発射してみたいとも思うだろうし、カッとなって発射してしまうこともあるだろう。


銃も同様であり、あれば撃ってみたくなるものなのか、銃合法の国には発砲事件も多い。

ハワイへの移住雑誌にも「そうは言ってもアメリカなのでチャカ所持ありの国であることを理解してから来てくれ」とパンケーキとロコモコの間に書かれていた。

よって、アメリカの治安が悪い場所というのは日本の比ではなく悪いようで、安全に暮らしたければ多少家賃の高い地域に住むしかなく、シェアハウスなどで節約しているらしい。



また、アメリカでは「パーティ代」が結構な出費になるそうだ。

日本では、服屋の店員がキレイめのワンピースを売りつける時にしか登場しない「ちょっとしたパーティ」だが、アメリカでは割とカジュアルに開催されているようだ。

クリスマスなどのイベント時はもちろん、大人になっても誕生日パーティを開き、誘われた者はプレゼントを持って参加しなければいけないようだ。


つまり、コミュ強であるほど交際費で死ぬ世界観ということだ。

そう考えると、コミュ症はこの世界的インフレにあったコンパクトな生き方と言える。


周囲に物を置かないミニマリストがもてはやされるなら、周りに人間が誰一人いない対人ミニマリストも、オシャレな生き方として提唱されるべきだろう。


ただ、一方でアメリカでは残業に対する取り締まりが厳しく、サービス残業という概念がないため、経営者は残業をさせないようにするので、定時に帰れることが多いという。

ただし、現在は物価高のため本業だけではやっていけず、定時後にウーバーとして第二の人生が始まる人も多いため、実質残業しているのと変わらない状態らしい。


また、賃金は高いがその分成果を出せなければ見限られるのも早く、「君明日から来なくていいよ」も珍しくないそうだ。

日本は一度雇用してしまったら、横領や会社に放火など、犯罪でも起こさない限りは即日解雇というのはなかなか難しい。

逮捕されても本人が否定していれば、刑が確定するまで「容疑者」という変わった役職のまま社に在籍しつづけるケースすらある。


「これだから日本は遅れている、これが欧米だったら」と比較されることも多いが、当然欧米にも良いところもあれば悪いところもある。

日本はいろいろオワコンだが、未だに治安の良さと、便所のキレイさは世界トップクラスと言っても良いだろう。他国なら殴り合いが始まるシーンで、双方半笑い会釈でやりすごす戦闘回避能力にも優れている。


完璧な場所などどこにもない。つまり「世界は平均して地獄」と思った方が良い。


そもそも不幸というのは比較をするから発生してしまうのである、自分より幸せな奴がいると思うから自分が不幸に思えるのだ。


現在、世界的物価高により、大体の庶民が以前より厳しい生活をしていると思われる。

自分が不幸なのも事実かもしれないが、「現在全人類うっすら不幸」と思えば、自分の不幸もそこまで気にならないはずである。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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