女の人生は、綺麗事だけでは生きられない。女の情念10選! / 山本理沙・選

文字数 5,072文字

恋愛、婚活、結婚、妊活、出産、子育て、離婚、そして不倫.......。


女の人生には、まるでアメとムチのように、様々なイベントが常につきまといます。



「自分は大丈夫」なんて思っていても、突然おかしな情念に駆られ、苦い思いをする経験は誰しもあるはず。そんな時は、様々な女心を描いた小説をお勧めしたいです。


手放したくても、なかなか消化できない女の情念。


小説の登場人物や痛いほど共感したり、また同時に俯瞰することで、心持ちに変化が起こるかもしれません。作家・山本理沙が、普段本を読まない方にも比較的手に取りやすい小説をご紹介します。

『産む、産めない、産まない』

(甘糟りり子/講談社文庫)

あらすじ

不妊治療を始めるか、続けるか、やめるか。突然の妊娠。仕事と出産、育児。病気で産めなくなることにどう向き合えばいいのか。妊娠と出産をめぐる女性のさまざまな戸惑いや迷いを丁寧にすくい上げ、それぞれの“人生の選択”を描いた八つの物語。

好きな本は繰り返し読む癖があり、この「妊娠・出産」を題材とした短編集は何度も読みました。

独身の頃、まだ子どもがいなかった頃、そしてつい最近、母になってから。毎回、最後はボロボロ泣いてしまいます。

この本が刊行されたのは2014年なので、主なテーマである不妊治療については現在と少し事情は変わっていると思います。

でも結局、女として、「産む」性を持った生物として、妊娠・出産というイベントから逃れるのはなかなか難しく、いつの時代も根本的な想いは変わらない気がしました。

しかしどんな選択をするにせよ、このイベントにとことん向き合い、決断をした女性はとても素敵で、強い成長を果たすのだと思います。

ラストの40歳過ぎの女同士のセリフが本当に胸に染みて、思い出すたびにジンときます。

『斜陽』

(太宰治/岩波文庫)

あらすじ

恋と革命に生きようとするかず子、基本を保とうとする母、破滅に向かって突き進む直治。敗戦直後の没落貴族の家庭を描いた名作。

誰もが知る名作。戦後の没落貴族である主人公・かず子の生き方が胸に刺さります。

ーー私には、常識という事が、わからないんです。すきな事さえ出来さえすれば、それはいい生活だと思います。私は、あなたの赤ちゃんを生みたいのです。他のひとの赤ちゃんは、どんな事があっても、生みたくないんですーー

彼女はこの信念を貫き、地位も名誉も財産もない“愛人”となり、今で言うシングルマザーの道を自ら選びます。お金持ちと結婚し、安定する道を捨てて。あの時代にこの選択がどれだけ勇気のいることが、想像は容易いでしょう。

結局人は、周囲が何と言おうと、自分が一番大切なものを大切にできることが本質的な幸せなのだと思います。必要なのは腹を括る覚悟と、単純に心の強さでしょうか。

『ビューティーキャンプ』

(林真理子/幻冬舎文庫)

あらすじ

ミス・ユニバース日本事務局で働く由希の上司は、NYの本部から送り込まれた美の伝道師・エルザ。彼女の元に美女12名が集められ、運命の2週間が始まる。苛酷で熾烈なキャンプで嫉妬に悶え、男に騙され、女に裏切られ……最後に残るのは?

「ルッキズム」って一体何なのだろう。

ミス・ユニバースの舞台裏を描いたこの小説を一気読みして、深々と考えさせられました。

主人公は少し前に有名になったイネス・リグロンさんをモデルにしていると思われますが、美への残酷なまでの執念が凄まじかったです。

ゾッとしたのは、主人公が太った女性に「あなたはとても醜い」「目障り」とセクハラやパワハラワードを並べて叱りつける場面。なのに最後は「私に任せなさい」「美しい女の人生がどんなものか教えてあげる。私だけがそれをできるの」と、周囲の女たちを屈服させてしまう展開に唖然としました。

さらに興味深かったのは、一見ルッキズムを一直線に追求している主人公が、物凄くフェミニストな面もたびたび見せること。「美を極めれば英雄になれる」という言葉がやけに印象に残っていますが、果たしてそれは真実なのでしょうか。

『Red』

(島本理生/中公文庫)

あらすじ

夫の両親と同居する塔子は、可愛い娘がいて姑とも仲がよく、恵まれた環境にいるはずだった。だが、かつての恋人との再会が塔子を、快楽の世界へ引き寄せていく。島清恋愛文学賞受賞作。

読み始めてすぐに心を持っていかれた小説です。

主人公が私と同じ2歳児の母という設定もあったと思いますが、この物語には現代の女性の苦しみが痛いくらいに詰まっていて、感情を容赦なく揺さぶられます。

最近さまざまな社会問題や人の話を聞いていて驚くのが、この平和で恵まれた日本において、苦しみや生きづらさを抱えてる女性があまりに多いこと。

外見も稼ぎも良い夫、可愛い娘。この主人公も表面的な幸せは手にしているはずなのに、読めば読むほど哀れみと同情しか感じません。

しかし彼女はルール違反を犯し罪悪感と戦いながらも、勇気を持って行動を起こし、自分の人生を歩んでいく。禁断の不倫要素も強く、刺激も満載のストーリーです。

『ナイルパーチの女子会』

(柚木麻子/文春文庫)

あらすじ

商社で働く栄利子は愛読していた主婦ブロガーの翔子と出会い、意気投合。だが他人との距離感をうまくつかめない彼女をやがて翔子は拒否する。執着する栄利子は悩みを同僚の男に相談するが――。

The best accessories a girl can have are her closest friends.

(女性が持てる最高のアクセサリーは、親友である)

これはパリス・ヒルトンの有名な名言ですが、この小説は友だちのいない女たちの物話。

女同士のドロドロなんてレベルでは済まず、内容がエキセントリックすぎて胸焼けすらします。

しかし読み進めるうち、小説全体に漂うフェミニズムや、どうしようもない女たちが少しずつ成長していく様子に目が離せなくなりました。

心に残っているのはこの一文。

ーー女が張り合っていつまで経っても共存出来ないのは、私たちがそうなりたいからなってるんじゃなくて、社会に基準を押し付けられて、ことあるごとに競うように仕向けられているからなんだと思うーー

こんな気持ちを持った経験がある方は、意外と多いのではないでしょうか? 

「アクセサリー」という言葉が正しいかは分かりませんが、実は「友情」とは女性の人生にかなり重要な役割を占めていて、逆にこの「友情」を確立できた女性の人生は想像以上に豊かになるのかもしれない、と思わされた作品でした。

『わたしの神様』

(小島慶子/幻冬舎文庫)

あらすじ

視聴率低迷の番組を立て直すため、敏腕プロデューサーに抜擢されたのはアイドルアナウンサー・仁和まなみ。しかし彼女はやがて、保身に走る男たちや敵意むき出しの女たちによって、スキャンダルの渦に引きずり込まれる。

「私には、ブスの気持ちがわからない」

この衝撃的な一文で始まる、有名な「女子アナ」の裏事情、そして女の戦いを描いた小説。

女性アナウンサーの実態がどれだけこの物語に近いものなのかは分かりませんが、元TBSアナウンサーである小島慶子さんが執筆されていることもあり、かなりリアルな臨場感がありました。

女性のステータスとして、ある意味「頂点」とも言えるキー局のアナウンサー。

しかしながら、常に人目に晒され、世間に求められる「正しい女性」を体現しながら仕事面でも成果を出すのがどれだけ困難か。そして、そんなアナウンサーを搾取しようとする権力者たちの恐ろしさと卑しさ。

華やかな世界で活躍し、いわゆる「承認欲求」を満たすことと引き換えに、あらゆる情念に駆られ狂っていく女たちの描写には鳥肌が立ちました。

この小説を読んでから、テレビで可憐に微笑む女性アナウンサーを見る目が少し変わってしまったのは言うまでもありません。

『あなたにオススメの』

(本谷有希子/講談社)

あらすじ

子供達をに教育する人気保育園に娘を通わせる母親。マンションの最上階を手に入れ、“我が家は上級”と悦に入る男。気づけば隣にディストピアーー。心底リアルな近未来!

読み進めるのが少し辛いくらいのディストピア(=逆ユートピア、反理想郷、暗黒世界の意味)小説。

現代のデジタル依存、過剰な子ども教育にどっぷりと浸かり、「人」としての思考力を失っていく愚かな母親と、彼女を取り巻く人々が皮肉にたっぷりに描かれています。

身体にいくつもの電子機器を埋め込みコンテンツ漬けになる...などの描写は過激ですが、「良くはない」と分かっていてもスマホを始めとする電子機器に依存してしまう怖さは、誰しも心当たりがあるんじゃないでしょうか。

また我が子の教育に迷走し、ついには発狂する母親、脱デジダルや自然派を推奨しながら、実はエキセントリックな宗教団体のような怪しい学校などは現実世界にも多く存在すると思います。後編のタワーマンションの最上階に住み低層階の住民を見下すストーリーも、どこまでも意地悪な切り口で読後感は正直あまり良くないですが、その「怖いもの見たさ感」がどうしようもなく面白い作品です。

『ブルーダイヤモンド 新装版』

(瀬戸内寂聴/講談社文庫)

あらすじ

生まれて初めて愛したのは、京都で出会った美しい娘だった。たたき上げの社長は彼女に金と愛情を惜しみなく注ぎ、自分の望む最高の女を作っていく。しかし娘は……。

かの有名な瀬戸内寂聴さんの、男女の業の深さを描いた短編集。

富も権力も手にした男が若く美しい女に身も蓋もない恋をする、しなびた中年の夫に新しい女ができたことを知り精神を病む妻......など。恋愛とは、実は物凄く怖いものだと思わずにはいられませんでした。どんなに強固な財力、安定した家庭を築いたところで、危険な恋に落ちたら最後。自分の人生が破綻するだけでなく、他人まで不幸にする危険性があるのです。

ただ、そんなことは頭では十分わかっていても、欲望に逆えない人間の愚かさは著名人のゴシップ報道の多さにも現れているような気がします。

それが人間の面白み......と言ってしまうのは不謹慎かもしれませんが、せめてこうした小説をコッソリ楽しんでおくのが、道を踏み外さないための予防策になるかもしれません。

『さくら、さくら おとなが恋して 新装版』

(林真理子/講談社文庫)

あらすじ

結婚しない人は恋をすればいい。不倫と割り切る寂しさ、恋を恋する喜び。男と女の綾なす恋模様を、円熟味あふれる筆致で描く、大人のための12編の小説集。

ありそうであまりない、大人の恋愛を描いた短編集。

大人の恋は青春時代と違い、激しい情熱があるわけでなく、心惹かれる異性が現れてもきちんと自制心が働き、お互いの事情も考慮する。身体の関係が必ずしも必要なわけでもない。

「恋愛」というと、どうしても稲妻に打たれたようなドラマを想像してしまうし、そんな他人の恋話を聞いて「私はなかなか恋愛ができない」「人を好きになれない」と自己嫌悪する女性も多い気がしますが、女性の社会進出や自立が目立つ中で、実はこの作品のような適度な温度感の「大人の恋」は主流になるような気もするし、「美味しいどこ取り」とも思えました。先ほどの『ブルーダイヤモンド』とは真逆で、自制心が働くうちはリスクも最小限に留められる。器用に恋愛を楽しむ男女がたくさん登場するので、恋愛に苦戦している方はこの作品を読むと何かしらのヒントを掴めると思いました。

『不機嫌な婚活』

(安本由佳・山本理沙/講談社文庫)

あらすじ

美貌だけでは勝ち抜けない!「婚活」という名のパンドラの箱を開けた女を襲う、数々の困難。リアルな婚活の修羅を描き出す禁断の恋愛小説。

手前味噌ですが、最後に私自身の著書をご紹介させてください。

これは巷を騒がせる『東京カレンダーWEB』で大きな話題を呼び、驚異的な人気を誇っていた小説が書籍化されたものです。

主に東京の「港区」という特殊でギラついたエリアを舞台とした婚活ドラマはとにかくリアルで、都会での恋愛を一度でも経験した方は「あるある...」「いるいる...」と深く胸に刺さること間違いなし。

前半は「美人なのにモテない」ハイスペック女子の痛快でコミカルな婚活物語。後半は都会に生息する「崖っぷち」な女たちの実態を容赦なく描いた短編集。

「結婚とは幸せを掴むものではなく、不幸にならない選択肢」「24時からの誘いに乗る女は“立ち食いラーメン”の価値しかない」など、多くの名言も並ぶ、恋愛指南書としても自信を持ってお勧めしたい一冊です。

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