第84回

文字数 2,352文字

まぁ冬やね、という冷え込みになってまいりました。

ガンガンエアコン焚いて部屋をあっためて、風邪ひかないようにしような。


脳内とネットでは饒舌な「ひきこもり」の代弁者・カレー沢薫がお届けする、

困難な時代のサバイブ術!

今回も身近にトピックがないのに「ひきこもり」で検索したら、「80代の俺が50になるひきこもりの息子を引き出し屋に預けた結果」という、かなり新しい記事がヒットした。

もちろんこんなノリではなく、草もまったく生えてない話であり、80歳の老母が自宅を売った1300万円で20年ひきこもった息子を引き出し屋に預けたところ、息子はその後遺体で発見され、餓死の疑いもあったという。


草どころか、マッドマックス級に荒廃した砂漠を、改造キャデラックが横切っていくような話だ。


引き出し屋というのは、文字通りひきこもりを引き出す民間業者のことだが、この手の事件はよく起こっている。


それも親が何をしても出てこない子どもに対し、「なるほどシベリア送りだ」という達観で業者に依頼したならまだ良いのだが、多くの親が万策つきた中、最後の望みで依頼している場合が多く、むしろ悪徳引き出し業者は、そういう陰毛にもすがる思いの親を狙ってくるのである。


ひきこもり問題は家の中だけで解決するのは難しく、周囲の支援と絆が不可欠と言われているが、「絆を大事にするというコンセプトのカフェほど、バイトからやりがい搾取している」という方程式の発見が次期ノーベル経済学賞を獲るとも言われている。

外部との繋がりは大事だが、どこに繋がるかによっては「繋がらない方がマシだった」という結果になりかねない。


つまり「信用の置ける外部機関」を選んで繋がらなければいけないのだが、「息子を殺して俺も死ぬ」という、期間限定ピックアップSSRのび太状態でそれを見極めるのは難しい。


むしろそういう時ほど「ゆっくり丁寧に家族と本人をケアする」と掲げた団体より、「40秒で引き出すわ」と黒Tバンダナの代表が腕組している業者の方がたのもしく見えてしまうものなのだ。


つまり、いざという時に頼る外部はいざになってから探してはダメなのである。

まだ「ドラえもソに何かいい感じの道具出してもらってこの件はまとめよう」という良くも悪くも知恵が回っている、恒常版のび太の内に探しておかなければならないのだ。


つまり私も「探すなら今」なのである。

そんなわけで我が村のひきこもり支援について調べてみたところ、前回書いたような国のひきこもり相談センターもあれば、ひきこもり支援のNPO法人も割と近場にあるということが判明した。


このNPO法人はそれなりに有名で、ここで行われる支援は全国でも注目を集めている的なことも書かれている。

それが本当かどうかはわからないが、ひきこもりを支援している外部団体は思ったよりもある、ということだ。


しかしそれらの団体は共通して、「探さないと見つからないし、自分から繋がりにいかないと繋がらない」という欠点がある。


これはひきこもり支援だけに言えることではなく、実は国もそれなりに困っている人たちに対して相談窓口や支援制度を用意してはいるのだ。

しかし、それが「知られていない」というケースがかなり多いのである。


ここで「誰も知らないのである」という、いつものアフロ田中ムーブをかましたいところだが、実は誰も知らないというわけではない。

現に私も、今調べたからそういう支援があるということを知ることができた。


しかし私はまだそこを利用する段階ではない。もしくはそう思い込んでいる利用すべき人だ。

つまり恒常のび太ぐらいにまでは辛うじて知られているが、今まさにそれを必要としているSSRのび太に届いていないのである。


これはネットでどれだけ困窮者支援サービスがあると言っても、それが必要な困窮者はネットすらできる状態ではないのと同じであり、SSRのび太も既にそこにたどり着く判断力と行動力がないのである。


ここで生死を分けるのが、異変に気付いた周囲の通報となるのだが、最近は他人の家庭に踏み込み過ぎるべきではないという風潮なので、余計問題が悪化しているといえる。


特にひきこもりは周囲に気づかれずらく、ステータスだけ見ると「スネークと完全一致」というステルス問題なのである。


いくら他所様の家庭に関わるべきではないと言っても、連日子どもの断末魔が町内に響き渡れば何とかしなければいけない、となるだろう。


しかし、ひきこもりというのは何せひきこもっているので肉眼で見えることは少なく、基本的に「静か」なため、存在すら周囲に知られてないケースが多いのだ。


仮ににぎやかなタイプのひきこもりだったとしても、子どもが叫んでいれば本能的に「何とかせねば」と思うが、それが中年の雄たけびだと人は防衛本能的に「関わらない方がいい」感じ、逆に見て見ぬふりをされてしまうケースが多い。


最近では「絆」は胡散臭い言葉の代表になっている。

しかし現在のひきこもりの高度迷彩を打ち破るのは、土クロックスで人の家に上がり込み「俺たちファミリーじゃん?」と肩を組んでくるデリカシーのなさしかない、というのも事実なのである。

カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。長州出身の維新派。漫画作品に『クレムリン』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』『きみにかわれるまえに』。エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『猥談ひとり旅』『非リア王』など。現在「モーニング」で『ひとりでしにたい』連載中&第1巻発売中。最新刊『きみにかわれるまえに』(日本文芸社)も発売中

★次回更新は12月10日(金)です。

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