~紀伊國屋書店から愛をこめて~ 凪良ゆう『汝、星のごとく』②

文字数 4,327文字

凪良ゆうを愛して止まない紀伊國屋書店の書店員さん達から届いた、最新刊『汝、星のごとく』と凪良さんへの熱烈なメッセージを、2回に分けてご紹介!

第二弾はこちらの方々です!

本を読む時に、せめて物語の世界でだけは奇跡を見せてほしいと願っている。

 ものすごく単純な言葉にするならそれは、傷ついても泣き叫んでも、嵐の海に放り出されても、決して壊れないつながりだ。

『流浪の月』で初めて出会った凪良ゆうの世界は、いつもそんな私の願望をかなえてくれる。


 二年ぶりの新刊が出ると聞いた時、『汝、星のごとく』……そのタイトルだけで予感に胸が震えた。

 あらかじめわかりやすいハッピーエンドの物語ではない予感は感じていた。

 もし『木綿のハンカチーフ』のようだったら、暁海も櫂もその時は辛くてもいつかは若い頃の恋のひとつになったのかもしれないのに、二人を最初に出会わせた切実な欠落、生きていることの不自由さが、魂まで結びつけてそれを許さない。恋愛だけじゃなくて血のつながりにおいても二人を縛る、距離も望んでいるものもタイミングも見ている方向も全てすれ違ってしまっているのに捨てられない絶望と孤独は呪いに似ている。

 だからプロローグの不穏さが別の様相に変わるエピローグ、ラスト七行は暁海と一緒に涙が知らぬ間に零れた。わかりあいたい、赦したい、赦されたい……ずっと求め、でも手に届かないように思えた切望が、最後の最後に自分だけの静かに輝く星となって流れ落ちてきて、この手にぎゅっと握りしめることができた瞬間だったと思う。

 いつも思う。苦くて切なくて愛おしいこの痛みをもたらす凪良ゆうの物語は、毒であり薬のようだと。私には必要だと。

平野千恵子(ひらの・ちえこ)

東京の東、イトーヨーカドー木場店で文学を担当。好きな本にはPOPをつけたいけど、書きたいことが多すぎて看板になってしまうこともしばしば。でも画力がないのと字が可愛くないのが悩みの種。

はじまりから不穏。

 奥さん公認の浮気? 前に相当しでかした?

 謎だらけのプロローグをぽんっと投げ渡され、あっという間に引き込まれてしまった。

 今、いわゆるBL出身作家と言われる作家さんたちがBL以外の作品も多く書かれている。私はBLの棚を担当していて、時折読んでもいるので凪良ゆうさんのお名前もこちらでの認識が先だった。テンポよく読め、ふとしたしぐさの描写や何気ない会話なのに漂う緊張感にドキドキしたのを覚えている。そんな著者が男女の恋愛を描くとどうなるのだろうと思っていたならば。ページを繰る手は止まらないし、次々と困難が降りかかる度にもう止めてお願い! と心の声が漏れ出ていた。

 十七歳で出会って三十二歳まで。これは暁海と櫂におきたこととおきなかったことの物語なのだ。家庭に問題を抱え「当たり前」でいられない二人がもがき、闘い、「普通ではない」からこそ手放し、手に入れたもの。恋人、家族、と簡単に説明できない関係を築いていく姿をどう伝えたらいいのかもどかしい。けれど覚悟を決めた暁海の静かなたたずまいは、只々美しい。本当の意味では彼らに関わっていない人達が無責任に言う「普通じゃない」や、「そんなのはおかしい」という声にどれだけ晒されても。

 エピローグの「おかしいって、なにを基準にして?」の一文。軽やかに放たれた言葉に笑う暁海。このシーンが誰かの救いになればいいと心から思った。

藤井美樹(ふじい・みき)

紀伊國屋書店広島店勤務。文庫、文芸書担当。毎年夏は怪奇・怪談ものが多く出るのでニヤニヤが止まらない。分厚い本はつい手に取る癖がある。

読み終わってからしばらくはこの作品と共に生活していました。心の中にいつも星が棲んでいました。

 朝の通勤のときも、太陽の光を手で遮りながら歩くときも、仕事着に着替えているときも、棚に本を詰めているときも、コンビニでおにぎりの具を選ぶときも、レジに立っているときも、帰りの電車の中でも、夜のスーパーでも、お風呂でも、トイレでも、一日の最後の意識が薄れるその時まで、片時も離れず私の心の中にいました。

 そのせいでしばらくは他の物語を読むことができなくって、きっと脳が勝手に「当分はこの物語だ」と、判断したに違いありません。

 今でも暁海と櫂のことを考えると、胸の奥でレモンをきゅっ……と搾ったような感覚になります。二人のことが少しずつ嫌いで、いっぱい大好き。どうしてあそこで、あのとき……と思わずにはいられないけれど、色々な選択肢の中からあのラストを選びにいった暁海が、櫂が、とても愛おしいと感じるのです。

 凪良作品が好きな私にとって、あのラストのあの景色はずるい、と思いました。だって、これまでの凪良作品が次々と頭に思い浮かんできて、そしてそのみんなが幸せそうなんです。誰にも形容できない関係性。けれども様々な愛の形で確かに繫がっている。わかりますか? わかりますよね! 凪良ファンは! 本を通して、多様性なんて一言では片づけられない関係性を受け止めてくれる凪良先生はどうしてこんなにも愛に溢れていて、愛に敏感で、愛に優しいのだろう。その答えを探すためにも、もっともっと先生の作品を読んでいきたいと思います。

 最後に先生へ。凪良ゆう先生、好き好き大好き超愛してる。私の心の中に棲みついた星は、先生が与えてくれた宝物です。というか先生自身が私にとっての星です。

 夕方、外に出ると西の空を見あげます。そこには輝く星があって、『汝~』のこと、先生のことを考えます。みんなの読了後の熱い感想を読んでくれているといいな、とか、発売日が迫ってきて不安になっていないかな、とか。『汝~』が私の宝物になってくれたように、きっとこれから読んでくれる沢山の人の宝物にこの作品はなります。紀伊國屋書店に、私に、そのお手伝いをさせてください。物語の最後に先生が見せてくれた最高に素敵な景色、忘れません。あの景色に勝るものはなかなかないですが、私たちがいつかきっと先生に最高で素敵なモノ、お返ししてみせます。これからもずっとずっと愛しています。

丸森ひなの(まるもり・ひなの)

紀伊國屋書店新宿本店文芸書(エンタメ)担当。浦和パルコ店の竹田勇生店長を師と仰ぐ。推したい作家はどこまでも推す、がモットー。

「事実と真実は違う」

 この言葉が心に深く残り、最初に読んだ時の衝撃は今でも忘れられません。


 初めての、凪良先生の作品との出逢いは『流浪の月』でした。


 その後、夢中で他の作品も拝読し、その度に、自分の価値観が変わっていきました。


 どうしてこんなにも凪良先生の作品に心惹かれるのか、2年ぶりの新刊『汝、星のごとく』を読み、その理由に辿り着けた気がします。


 最初は、家族問題で生きづらさを感じていた高校生、暁海と櫂の、恋愛小説だと思い読み進めていました。

 しかし序盤からは想像できない展開に言葉を失い、ラストは涙が止まりませんでした。


 読後「普通」や「常識」、また「愛」について深く考えさせられました。


 ふいに、アインシュタインの「常識とは18歳までに積み上げられた先入観の堆積物にすぎない」という言葉が脳裏をよぎりました。


 知識も経験も未熟な子ども時代に過ごした環境、出会った人々の影響は大きく、ともすれば偏った大人になる可能性を秘めていると思います。


 ただ、「愛」という存在が、色々な「普通」や「常識」を包んで浄化してくれる。

 物語を通して、言葉を超えた、相手を大切に想う「愛」に胸が燃えました。


 世間の常識とされる「普通」の服を脱ぎ捨てて、自分が本当に望む「普遍」の服をまとい、進んでいく少年少女の物語。

 その道は険しいけれど、眩しいほど煌めきに溢れていました。


 それは、暗かった六等星の心が、自分らしい一等星の輝きを放つ本当の心を見つけに行く、濃密な宇宙旅行のよう。


 凪良先生の作品に惹かれるのは、それが「普通」や「常識」の枠に囚われない、新しい生き方の物語であり、そこから生まれる感情を、私は大切にして生きていきたいと思うからでした。


『汝、星のごとく』で見た奇跡は、これからもずっと心に輝き続けていきます。

宗岡敦子(むなおか・あつこ)

紀伊國屋書店福岡本店勤務。担当分野は文学。とにかく本が好きで、気になった本はジャンル問わず何でも読みます! 同時並行で読むことで、生じた感情がつながる事が最高に楽しいです!

凪良作品の引力は絶大である。物語に引き込む力、心を捉える力。ぐいぐいと引き込まれてしかたない。

「月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく。」世間一般の「常識」では受け入れられないショッキングな一文から物語は始まる。そしてその一文から続く淡々とした夫婦のやりとり。その時点ですっかり引き込まれていた。外の雑音が全く聞こえなくなる程物語に集中し、のめり込んだのはいったい何年ぶりだったのか。この物語はいったいどんな終わりを迎えるのか、気になって止められない! でもこの物語がまだまだ続いて欲しくて、残りのページ数が減ることが寂しい! そんな相反する気持ちを抱えながら、無我夢中でページを捲った。

 それほどまでに凪良作品の引力というのは大きいのである。どうしてこんなにも引き付けられるのか。私は凪良先生の作品を読むと「自分」を生きることを鼓舞されているような気持ちになる。作中の言葉にはっとさせられ、自分自身を省みるきっかけとなる。「常識」に囚われないで、自分で考えるのだと。見たくない「自分」と向き合うことは決して優しいことではない。しかし、凪良先生の作品はそっと寄り添いながら背中を押してくれる。だからこそ読まずにはいられない。そして繰り返し何度でも読みたくなる。

『汝、星のごとく』という作品に、今このタイミングで出会えたことは幸運だ。本を読む楽しさを思い出させてくれた。この気持ちを多くの人に味わってもらいたくて書店員になったのだ。間違いなく、私の人生を変える一冊との出会いだった。

山本紗綾(やまもと・さあや)

紀伊國屋書店ゆめタウン下松店店長。広島県出身。趣味はツーリングで、瀬戸内の海沿いをまったり走るのがストレス解消法。

初出:「小説現代」2022年9月号

『汝、星のごとく』

凪良ゆう

講談社 

定価:1760円(税込)


風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂。ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた凪良ゆうが紡ぐ、ひとつではない愛の物語。本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。

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