第39回/脱税×インフルエンサー×一斉検挙

文字数 2,237文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

一週間ぐらい前に、税理士から確定申告が終わったと連絡があった。


そして「じゃあ便の時書類取りに行きます」と言ったまま一週間経過したのが現在である。

すでに申告は終わっているのだから、急いで取りに行く必要は特にない。

税理士事務所の人間が私の決算書類に躓いてコケる恐れはあるが、床に投げ捨てておかなければ防げるリスクである。


それに急いで見に行ったところで何も良いことはない。ただ追納額と今年払わなければいけない税金を読み上げられるだけだし、税理士側も節税の余地がもうないので「ガンバ」みたいなことしか言わず、面談は5分ぐらいで終わるのだ。

それにあまり長居をすると、世間話感覚で私の仕事内容について聞かれてしまうので、そんな隙を与えるわけにはいかない。

聞いたところで、相手も「困惑」以外のリアクションが取れないのでお互い不幸だ。


しかし私は経費にできる領収書をあえて捨てたりと、もはやバカ正直から正直を抜いて良いレベルでまっとうに税金を納めている。


税金を払うぐらい当然のことだと思うかもしれないが、世の中にはその義務を放棄しようとする輩もいるのだ。


先日も、インフルエンサーが3億円の申告漏れを指摘されたそうだ。


そこだけ聞くとインフルエンサーという奴はそんなに稼いでいるのかけしからん、と思うかもしれないが、記事をよく読んでみると、摘発されたインフルエンサーは9人、そして6年で総額3億の申告漏れだそうだ。

単純計算すると一人当たり年間550万なので、そこまで巨額というわけではなかったりする。

しかも記事によると「フォロワー数数千人から数十万人のインフルエンサー9人」とあり、追徴額も「百数十万から3000万」とかなり差がある。


フォロワー数数千人と言ったら私よりも遥かに少ない。

つまり、9人の中にはわざわざニュースになるほどでもない木っ端インフルエンサーが含まれていると思われる。

さらに9人の中には、「情報商材の売り上げを海外のペーパーカンパニーの収入と装い所得を隠していた」という脱税ガチ勢も含まれていたようだ。

このガチ勢のみが巨悪で、残りは雑魚という可能性すらある。


だが、できるだけ申告漏れ総額を増やし「インフルエンサー一斉検挙」という大きなニュースにしたかったのではないかと思われる。

指摘されたのが全員女性インフルエンサーという点も、他意を感じる。


さらにそれがニュースになったのが確定申告前とくれば、「お前らもちゃんと申告しないと同じ目に遭うぞ」という、インフルエンサーに対する見せしめ的な意味もあったと思わざるを得ない。


金の稼ぎ方も多様化しており、新種のマネタイズはお上も全容を掴むのに時間がかかるのか、しばらくは申告しなくてもお咎めがないのかもしれないが、いつかはバレて数年分未払い税金を払う羽目になる。


さらに、脱税した分「加算税」という割増税金を払うことになるようだ。

やったことの邪悪さや金額にもよるらしいが、無申告の場合「20%」の加算税がつくこともあるそうだ。

貸金業者であれば、ほとんど違法な数字ではなかろうか。

これは人間の発明の中で核より残忍といわれる、リボと一騎打ちのレベルだ。

しかしリボなど貸金業から借りた借金は、自己破産によってチャラにすることも可能である。

対して税金は、自己破産しても消滅せず払い続けなければならないのだ。

そういう意味では、天下一残虐武道会の軍配は税金に上がるのだが、これは最初から適切に税金を払っていさえすれば課せられないものなので、この戦いの勝敗はまだつきそうにない。


収入が多ければ多いほど税額は上がり、最大で半分近く取られてしまう場合すらある。

そんな理不尽を前に「申告しなければいいのでは?」というアイデアを思いつくなという方が無理である。

しかしそのアイデアを実行すると、違法レベルの罰金を上乗せされるうえ自己破産もできないというさらなる理不尽に襲われることになる。

そんな行きで強盗にあって帰りで強盗にあう、ヨハネスブルク都市伝説みたいな目に自らあいにいくことはないだろう。

ちゃんと申告すれば、強盗に1回あうだけで済むと思えば得ですらある。


これを見ているインフルエンサーの方はぜひ適切に申告し、「私が使ったのはこれ!」と経理ソフトの宣伝で小金を取り戻してほしい。


ちなみに、近々「パパ活」の一斉摘発があるという噂もあった。

飯のおごりやプレゼントをもらうパパ活であれば、税務署もそうそう指摘できないだろうが、月額契約で銀行振り込みにしている、サブスクパパ活をしている場合は足がつきやすい。


また、中にはパパ活代を秘書などの人件費として計上しているパパもいるらしいので、そこからバレる恐れもある。

数年間のパパ活申告漏れを指摘されたら、追徴課税はかなりの額になるはずなので、パパ活のみならず20万円以上収入があれば申告するのが身のためである。


特に毎回領収書を書かせるパパには、注意した方が良い。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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