第3話 メリーゴーランド四日市

文字数 1,905文字

書店を訪れる醍醐味といえば、「未知の本との出合い」。

しかしこのご時世、書店に足を運ぶことが少なくなってしまった、という方も多いはず。


そんなあなたのために、「出張書店」を開店します!

魅力的な選書をしている全国の書店さんが、フィクション、ノンフィクション、漫画、雑誌…全ての「本」から、おすすめの3冊をご紹介。


読書が大好きなあなたにとっては新しい本との出合いの場に、そしてあまり本を読まない…というあなたにとっては、読書にハマるきっかけの場となりますように。

第3回は、「メリーゴーランド四日市」さまにご紹介いただきます。

そのつもり

荒井良二/作

(講談社)

 森の広い空き地を、どんな風に使うかを、リスやカラス、サルやシカたちが話し合っています。サルが、「穴を掘って、温泉にしよう」と言うと、カラスは「海にしたい」と言います。アイデアが出るたび、動物たちは、温泉に入ったつもりになって、ほわーんと温まってみたり。海ができたつもりになって、優雅に泳いでみたり…。もうずっと続いているという、動物たちのこの会議。さてさて、結論は出るのでしょうか?

 彼らはただ“そのつもり”になってみるだけ。けれど、みんなであれこれ話しながら想像している時間って、とっても良いものですよね。だって、考えているだけなら、現実にできそうにないことを言ってみるのも、とにかく気分を味わうのも自由。彼らと一緒に、そのつもりになって考えてみるのはいかがでしょう。

 そして、登場人物ひとりひとりに注目して読むのも、たのしみの一つです。絵をじっくり眺めていると、動物たちの表情が、見事に描き分けられているのが、よくわかります。いたずらが好きそうなひとがいたり、いつもくっついて座っているひとたちがいたり。絵本を読む子どもたちは、実はそんな細かいところまで見ているんですよ。

 小さいひとから読みやすい内容ですが、大人の方にもプレゼントしたくなる本です。

『ふくろうくん』

アーノルド・ローベル/作  三木卓/訳

(文化出版局)

 ふくろうくんが、ある夜、ベッドに入って寝ようとすると、あらら? 毛布の下に、二つの“こんもりしたもの”を見つけます。中をのぞいても、毛布をどかしてみても、あるのは自分の二つの足だけ。これはいったい何だろう。このこんもりが、どんどん大きくなってしまったら…。次々と考えをめぐらせるふくろうくん。はたして、このまま眠れるのでしょうか?

 「がまくんとかえるくん」シリーズでおなじみ、アーノルド・ローベルによる、この幼年童話には、ふくろうくんが主人公のお話が五つ収録されています。「こんもりおやま」のお話をはじめ、どれも、彼の考えがどこに進んでいくのか、まったく見当がつきません。うろたえたり、困ったり、ひらめいたり。奇想天外な思いつきにかられて、そのたびにころころと変わるふくろうくんの表情が、なんとも笑えます。

 彼のように毎日を過ごしていたら、きっと、ささいなできごとも、驚きの連続に違いないだろうな。そう思いながら、何度も何度も、本を開いてふくろうくんに会いに行きたくなります。お子さん一人で読むのにも、親子での読み語りにも。自分の時間をじっくり愉しみたい方にもおすすめですよ。

『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』

斎藤倫/文  高野文子/絵

(福音館書店)

 ある日のこと、一人暮らしの大人「ぼく」のところへ、顔なじみの少年が訪ねてきます。学校帰りの彼は、「せんせいが、おまえは本を読めっていうんだ。ことばがなってないから」とぼやきます。訊けば、ゲームばかりしているから、“正しい言葉”が使えないのだ、と言われたらしいのです。そもそも、“正しい言葉”って、何のことなのだろう?「ぼく」は、そう言いながら、本棚からある一冊の詩集を取り出し、少年に手渡すのですが…。こうして、「ぼく」と少年が、言葉について、一緒に考え始めます。

 一章ごとに、実際に世の中に発表されてきた、様々な詩が出てくるのですが、登場する詩人は、萩原朔太郎や、長田弘、まど・みちお…!そのチョイスにまず、やられてしまいます。そして、二人の会話がまた、とっても素敵なんです。子どもと大人という壁を全く作らずに、ああだこうだと詩について語り合う。その姿を見ていると、言葉の世界って、こんなに広々とした、自由なものなのか!と、改めて感激してしまいます。短い章立てになっていて、気軽に手に取りやすいこの本。詩集として。物語として。まさに一度で二度おいしい一冊です。

メリーゴーランド四日市(三重)

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