プロに訊く『賢者の棘 警視庁殺人分析班』

文字数 2,401文字

正統派ミステリーといえばこの人、麻見和史さん!

ドラマ化多数の超人気作家です。

そんな麻見さんの大ヒットシリーズ〈警視庁殺人分析班〉の見どころは?

文庫最新刊『賢者の棘』の解説から抜粋し、Q&A形式で紹介します!

解説担当はこの方!

末國善己(すえくによしみ)

文芸評論家。ミステリーから時代小説まで幅広く執筆。

全集やアンソロジーの編著も数多く手がけている。

〈警視庁殺人分析班〉ってどんなシリーズ?

身長152.8センチと小柄な如月塔子巡査部長と、身長183センチと大柄で指導員的な立場の鷹野秀昭警部補という対照的体格の2人がバディになる〈警視庁殺人分析班〉(講談社ノベルスでは警視庁捜査一課十一係)シリーズは、1巻ごとに完結するスタイルになっているが未解決の謎もある。それが、シリーズの初期から塔子の家に脅迫状を送り続けているのが誰で、何が目的なのかである。

塔子は、警察官だった父・功の後を追うように警察官になった。だが脅迫状は13年前に病気で警察を辞め翌年に亡くなった父宛に送られていて、父が誰かに恨まれるような警察官だったのであれば、塔子の警察官人生に影響を与えるかもしれない。そのため、脅迫状問題がどんな展開になるか気になっている読者も少なくないはずだ。

シリーズ第13弾となる本書『賢者の棘』は、警察にゲームを仕掛け失敗すれば処刑装置に拘束した被害者が死ぬという、映画〈ソウ〉シリーズの「ジグソウ」を想起させる残酷な犯人との戦いを通して、塔子の家に脅迫状が送られる謎にも新たな光が当たる節目となっているだけに、シリーズのファンは絶対に外せない一作といえる。
猫が出てくると聞きました!

塔子は母親と二人暮らしで、家でエキゾチックショートヘアの雄、縞模様なので英語のタビーを逆さ読みにしてビー太という猫を飼っている。本書で描かれる事件は、処刑装置を使った猟奇的な事件も、脅迫状も重くシリアスだが、冒頭と終盤に登場するビー太が深刻さを緩和してくれている。猫好きなら特に楽しめるのではないか。

本格ミステリーとしての完成度は?

塔子が正解を導き出そうとするロジカルな推理は、タイムリミットが設定されていることもあり息詰まるサスペンスに圧倒されるはずだ。

本格ミステリには、明らかに連続した事件なのに、被害者の共通点が不明なミッシングリンクという題材があり、アガサ・クリスティ『ABC殺人事件』が古典的な名作とされている。本書もミッシングリンクをテーマにした作品で、動機の意外性ともリンクする独創的な被害者3人の繋がりは本格ミステリのマニアほど驚きが大きく感じられるように思えた。後半にはエラリイ・クイーン『Yの悲劇』を彷彿させるトリックも出てくるので、『ヴェサリウスの柩』で本格ミステリの賞である鮎川哲也賞を受賞してデビューした著者の面目躍如といえる。

作品テーマと見どころは?

父と同じ警察官になった塔子は、犯罪者を捕まえることで正義を実行したいと考えているが、警察の、あるいは塔子の正義は唯一絶対ではない。ある事件を解決するためには、関係者に疑惑の目を向ける場合もあり、無実なのに容疑者扱いされて長時間の取り調べを受けた人は恨みを抱き警察の掲げる正義を疑問視するかもしれない。あるいは懸命に捜査しても犯人が特定できず迷宮入りしたら、被害者やその家族は警察を憎んでもおかしくない。警察官は親身になって被害者家族に接しているつもりでも、小さな誤解が広がり不信を持つようになるケースもあり得る。

警察に正義があるように、被害者にも、犯人にも、犯罪や裁判を見ている国民にも正義があるので、ときに正義がぶつかり軋轢を起こすこともある。特に、匿名性が高く自由に意見が発信できるSNSが発達した近年は、自分の意見を疑わず、異なる意見を持つ人を罵倒する状況も生まれてきている。このような時代だからこそ、正義がいつの間にか憎しみに変わっているのに気付かなかったり、相手の境遇に寄り添って考えられない想像力の欠如が事態を複雑かつ大きくし、現代日本の“闇”と重なる事件に塔子たちが挑むことで、正義の持つ危うい一面に切り込んだ本書が書かれた意義は大きい

二重三重に親子、家族の関係が描かれ、家族愛が負の感情を克服する一助になるとされているので情愛と謎解きの融合も鮮やかである。

正義とは何か。そして親子というテーマも重要ですね。

ありがとうございました!!

麻見和史『賢者の棘 警視庁殺人分析班』


刑事だった父・功への恨みが書かれた脅迫状。過激な文面に母の身を案じた新人刑事・如月塔子が調査を開始した矢先、「賢者」を名乗る者から警察に挑戦が。犯人は被害者の生死を決めるゲームに塔子を参加させるよう要求。一連の事件は脅迫状とも絡んでいて⁉ 怒涛の展開に緊張必至の大人気警察ミステリー!

※文庫版は2023年11月15日(水)発売です。

麻見和史(あさみかずし)


1965年千葉県生まれ。2006年『ヴェサリウスの柩』で第16回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。

『石の繭』『蟻の階段』『水晶の鼓動』『虚空の糸』『聖者の凶数』『女神の骨格』『蝶の力学』『雨色の仔羊』『奈落の偶像』『鷹の砦』『凪の残響』『天空の鏡』『賢者の棘』(本書)と続く「警視庁殺人分析班」シリーズはドラマ化され人気を博し、累計80万部を超える大ヒットとなっている。

また、『邪神の天秤』『偽神の審判』と続く「警視庁公安分析班」シリーズも2022年にドラマ化された。

その他の著作に『警視庁文書捜査官』『永久囚人』『緋色のシグナル』『灰の轍』『影の斜塔』『愚者の檻』『銀翼の死角』『茨の墓標』『琥珀の闇』と続く「警視庁文書捜査官」シリーズや、『水葬の迷宮』『死者の盟約』と続く「警視庁特捜7」シリーズ、『擬態の殻 刑事・一條聡士』『無垢の傷痕 本所署<白と黒>の事件簿』『凍結事案捜査班 時の呪縛』などがある。

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